特権ID管理とは? 重要とされる理由や管理システムのメリットを解説
企業が対策すべき情報セキュリティリスクには、外部からのサイバー攻撃と内部不正による情報漏洩が挙げられますが、こうした攻撃に悪用されがちなのが特権IDです。サイバー攻撃の手法が巧妙化されており、さらにDXやテレワークの導入も進んだ昨今では、企業の特権ID管理を見直す必要があります。
本記事では、特権ID管理の重要性や適切な管理のためのポイントのほか、管理システムを導入するメリットや管理システムの種類、選び方について解説します。
特権IDとは、システム運用やユーザー権限管理などに使われる強力な権限を持つID
特権IDとは、企業のシステム運用やユーザー権限管理、メンテナンスなどに使われる、強力な権限を持つIDのことです。特権アカウントとも呼ばれることもあります。
特権IDのアカウント情報が何かしらの要因で流出すると、最悪の場合はシステム停止を含むあらゆる操作が可能となり、機密情報の漏洩も起こりかねません。その結果、企業に甚大な被害が生じる可能性もあります。そのため、企業は特権IDの管理を一般的なID以上に慎重かつ強固に行う必要があるのです。
また、特権IDのID名は、多くのシステムで開発時に設定されています。例えば、Windowsなら「Administrator」で、macOS・UNIX・Linuxは「root」というID名となっています。
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特権ID管理が重要になっている理由
広範な権限を持つ特権IDの管理は、企業では特に重要です。その理由は、下記の4つのポイントに分けて考えることができます。
管理しなければならないIDが増えている
近年はDXやテレワークの導入が推進されています。それに伴い、企業が利用するシステムの数が増え、管理しなければならないIDの数も増えているのが現状です。
特権IDはサービスによって権限の範囲も様々で、その管理体制も複雑化しがちです。管理すべきIDが増え、適切にログインに必要な情報を管理できていないと、外部または内部からの攻撃を許す隙が生じやすくなります。
管理しないとサイバー攻撃の対象にされやすい
特権IDを一度取得してしまえば、様々な方法で悪用できてしまいます。それにもかかわらず、ID名は広く知られているために攻撃を受けやすいという側面も特権IDは持っているのです。
サイバー攻撃は年々巧妙化しており、従来の特権IDの管理方法でだけは十分に対処ができなくなっています。標的型攻撃などで狙われた場合の対策も含めて、管理方法を見直す必要があるでしょう。
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管理しないと内部不正が起こりやすい
特権IDは最初から設定されている上に権限が広いことから共有による利便性も大きいため、社内でアカウント情報を共有している企業が少なからず存在します。これは、特権IDを企業内部の関係者が悪用しても、アカウント情報を知っている従業員のうちの誰かが犯人だということはわかりますが、それ以上の特定がしにくいということでもあります。
場合によっては、どこまでアカウント情報が共有されているかがわからないケースもあるかもしれません。このような状況では、内部で不正な操作が行われてもその発覚が遅れる恐れもあり、内部不正を容易に行えると思われてしまいやすいのです。
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特権IDは不正操作の痕跡も削除できてしまう
特権IDを使うと、企業のシステム内に保存されているログの閲覧や削除も可能です。つまり、不正な操作を行っても正常な操作に見せかけることもできてしまうため、情報セキュリティ上のインシデントが発生した際にその原因を特定しにくくなる恐れもあります。
特権IDを適切に管理するためのポイント
特権IDの悪用を防ぐには、いくつかのポイントを押さえた適切な管理を行わなければなりません。下記の3点を踏まえた管理体制を整えれば、情報漏洩を防止できる可能性が高まります。
使用者を特定できるようにする
特権IDは、誰かが使用した際にその使用者を特定できるように管理する必要があります。特権IDの保有数、それぞれのアカウント情報を把握している従業員を明確にしておきましょう。
また、内部不正や情報漏洩のリスクを抑えるためにも、特権IDのアカウント情報を把握している従業員の人数を最小限にすることも重要です。
簡単に使用できない仕組みを作る
特権IDは、簡単に使用できないようにしなければなりません。簡単に使用させないための方法として考えられるのが、申請・承認フローの導入です。特権IDの利用が必要な従業員には申請を義務付けて、適切な使用目的でない限りは承認しないという体制を整えます。パスワードをはじめとする特権IDのアカウント情報は機密情報として取り扱い、承認された従業員以外は使用できない状態にします。
また、パスワードを定期的に変更し、可能であれば多要素認証も導入して、許可された従業員以外の特権IDへのアクセスを困難にする方法も効果的です。ほかにも、特権IDの権限自体を必要な範囲内に制限するという方法も考えられます。
不正操作があった場合に検知できるようモニタリングする
「特権IDの使用に際して申請された通りの作業が行われていない」「通常とは異なる場所からアクセスされている」といった不正または不審な操作があった場合に、すばやく検知できるようモニタリングしておくことも大切です。申請された作業以外の操作がないかどうかを確認するために、特権IDを使用した作業をすべてログとして記録し、そのログが簡単には削除できないような仕組みも導入してください。
特権ID管理システムのメリット
特権IDは、紙の台帳や表計算ソフトで管理できる場合もありますが、操作ログの記録といった管理を徹底するとなると、管理システムの導入が必要となります。特権ID管理システムの主なメリットとしては、下記の4点が挙げられます。
使用者のアクセス制御や追跡が容易になる
使用者のアクセス制御や追跡が容易になるという点は、特権ID管理システムのメリットです。特権ID管理システムを導入すると、申請・承認手続きをシステム上で管理できるようになり、いつ・誰が・何のために・どのような操作を行ったのかといった使用履歴を記録することができます。
また、アクセス可能な時間を指定できるシステムなら、不必要な特権IDの使用も制限できるようになります。さらに、不審なアクセスがあった際や、インシデント発生時には即座にアクセスを遮断することも可能です。操作ログが残るシステムなら、使用者の追跡も容易になります。
管理システムによって操作ログを記録しているということは、内部不正の抑止効果も発揮します。従業員の情報セキュリティ意識向上も期待できるでしょう。
簡単にパスワード管理強化ができる
特権ID管理システムのメリットは、簡単にパスワード管理が強化できるという点です。特権IDは、企業内で共有するために紙に書いて掲示したり、覚えやすいパスワードを複数のシステム間で長期間使用したりするケースも少なくありません。このような使用方法では不正アクセスを招きやすい上、内部不正が発生した際の犯人の特定なども難しくなってしまいます。
この点、特権ID管理システムを使えば、パスワード管理機能によって簡単に管理体制を強化できます。ワンタイムパスワードによる2段階認証や生体認証などの多要素認証に対応したシステムもあります。さらに、定期的なパスワード変更を自動化できるシステムなら、管理者の業務負担も軽減できるでしょう。
管理業務が効率化する
特権ID管理システムでは、複数の特権IDの棚卸や、申請・承認フローの導入などを効率化できる点もメリットです。特権IDの管理には、アカウントの棚卸、申請・承認手続きの導入、承認に連動した特権IDの貸出・回収、定期的なパスワード変更といった、手動で行うには煩雑で多岐にわたる作業が必要になります。
特権ID管理システムを導入すると、これらの業務を自動化することが可能です。操作ログと作業申請内容との自動突合せ機能などもあれば、管理者の業務負担を大きく軽減できます。
監査への対応が容易になる
監査への対応が容易になるという点も、特権ID管理システムのメリットです。特権IDは広い権限を持つため、情報漏洩時の危険性から、監査法人による監査でも特にチェックされやすい機密情報の1つです。特権IDの申請から付与、管理までの一連の流れを適切に実施し、監査時に実施状況を確認できるようにしておく必要があります。
特権ID管理システムを導入していれば、申請・承認フローの運用状況や操作ログの監視状況なども速やかに確認できるため、監査時も適切な管理が行われているという説明がしやすくなります。
特権ID管理システムの選び方
特権ID管理システムは、自社に合ったものを導入することが大切です。そのためには、下記の3つのポイントに着目することをお勧めします。
IDごとに権限の制限が細かく設定できるか
特権ID管理システムでは、割り当てるIDごとにどこまで細かく権限の制限を設けられるのかという点が重要です。特権IDの使用権限は、申請者の役職や職務に応じて、柔軟に設定できるようにしておく必要があります。例えば、申請内容以外の操作を制限できれば、操作ミスによる情報漏洩などのリスクを防げます。
また、同じ特権IDを長期間使用できる状態にしておくと、不正使用や情報漏洩のリスクが高まります。有効期限をシステム上で設定できれば、期限を過ぎた特権IDは使用できなくなるため、安全に運用することができるでしょう。
ログ管理機能は充実しているか
特権ID管理システムには、特権IDが使用された際にどのような操作が行われたのかをログとして記録し、不審な操作があった際に検知できる機能も必要です。特権IDの操作ログが、IDごとに記録できるかどうかも確認してください。
特権IDに誰がログインしたのか、ログイン後にどのような操作を行ったのかがログとして記録されれば、不審な操作があった際や情報漏洩などのインシデントが発生したときの調査にも役立ちます。
特権ID管理システムによっては、操作画面の動画を録画する機能を搭載していたり、コマンド実行時の画面を画像として記録できたりするものもあります。
申請・承認ワークフローに対応しているか
特権IDの管理システム選びでは、ID管理機能だけでなく、申請・承認機能に対応できて、さらに点検機能が搭載されているシステムであるかどうかもチェックしましょう。
特権ID管理においては、使用申請・承認のワークフローを確立する必要があります。また、不正使用を防ぎながら監査に適切に対応するためにも、そのフローが正しく運用されているかを点検する機能は欠かせません。特権ID管理システムの中には、申請・承認ワークフローに対応できる機能が備わっていないものもあるため、システム選びの際は注意してください。さらに、申請内容と実際の操作ログのチェックをシステム上で行えることも重要です。
これらの機能を個別に導入していてシステム同士を連携できる場合は問題ありませんが、そうでないのであれば、申請・承認機能が搭載されているシステムを選ぶのがお勧めです。
特権IDの管理で、外部攻撃や内部不正による情報漏洩を防ごう
特権IDは不正使用されると甚大な被害が出かねないため、社内で適切な管理ができていない場合は早急に対応する必要があります。特権ID管理システムを導入し、効率的かつ強固な情報セキュリティリスクの防衛体制を構築しましょう。また、情報漏洩を防ぐためには特権ID管理は欠かせませんが、脅威はそれだけではありません。特権IDを使用しない形での情報漏洩も起こりえるため、十分な対策が必要です。
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特権ID管理システムと並行して、強固な情報漏洩対策をお考えの場合は、ぜひ「MaLion」シリーズの導入をご検討ください。