【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第2回 勝つのは「変化できる者」 2013年12月18日配信

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるでもない。
唯一生き残ることができるのは、変化できる者である。」

ご存知の方もいるであろう。これは講演会やセミナーなどで多くのスピーカーが好んで使う、ダーウィンの名言である。

この「変化できる者」になることは、とても難しい。

有力企業でさえ時代の変化に気づかず、商品開発に乗り遅れたり、事業を撤退に追い込まれたりする例が数多く見られる。

ソニーは、高精彩ブラウン管のトリニトロン事業に重点を置きすぎて、液晶ビジネスに乗り遅れてしまった。シャープは、世界最高水準の液晶技術を持っていたにもかかわらず、テレビ事業にこだわりすぎて、スマートフォンの将来性を見落としてしまった。マイクロソフトは、PCソフトで驚異的な成功を収めていたが、スマートフォンではビジネスのタイミングを逃し、AppleやGoogleに大きく遅れを取ってしまった。

当社も時代の変化に気づかずに、ベストセラー商品が撤退に追い込まれた苦い経験を持っている。

前号のコラムでも紹介した当社の「まいと~く」は、今の「IE」や「Google Chrome」などと同じ目的を持ったパソコン通信向けのソフトで、50万本以上売れた大ヒット商品だった。

ところが、Windows 95が発売された頃から「まいと~く」の事業に暗雲が立ち込めてきた。理由は、高速なインターネットとWebブラウザーの登場である。

当時、高速インターネットの到来は数年前から少し気になってはいたが、はっきり潮目が変わったと感じたのは、若きマーク・アンドリーセン率いるネットスケープ・コミュニケーションズ社が開発したWebブラウザー「Netscape Navigator」の登場だった。

「Netscape Navigator」は、グラフィックや写真、動画も自由に扱え、音声も聞け、しかもそれらを高速に処理できる。このサンプルを実際に触ったとき、「こいつはスゴイ」「これはヤバイ」と、「まいと~く」のビジネスに不安を感じたことを今でも憶えている。「まいと~く」は文字データしか扱えなく、雲泥の差があったからだ。

それでも、「まだまだ大丈夫」「まだまだ数年は行ける」と高を括っていた私は、高速インターネットの急速な普及と、強烈なWebブラウザーの登場に、完全にノックアウトをくらってしまったのだ。

実は、「Netscape Navigator」が発売される1年程前に、サンフランシスコにあるスパイグラス社というベンチャー企業がWebブラウザーのオリジナル版である「Mosaic」をOEM供給していることを聞きつけ、訪れたことがある。インターネットの普及に対応するため「Mosaic」のOEM提供を受け、これを日本語化した「まいと~く Internet」を売り出すためだった。しかし、時すでに遅し。

さらに、「まいと~く」のビジネスにダブルパンチをくらったのが、Windows 95に「IE」が標準バンドルされたことであった。OSに無料でバンドルされたことで勝負は完全に決まってしまった。これが決定打となり、「まいと~く」の売上は2年で一気にゼロとなってしまったのだ。

幸いにして当社には、端末エミュレーターやEDI関連など企業向けに売れていた通信ソフトがあった。もし、当社が「まいと~く」しか商品を持っていなかったらと思うと本当に恐ろしい。その後、競合していた「Netscape Navigator」も、当社と同様撤退に追い込まれる羽目になった。

ダーウィンの「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」を、身をもって知った苦い経験である。このことは、その後の私のビジネスに大きな教訓となったが、しかし大きな代償を払ったことも事実である。「2~3年早く気づいていれば、別の手を打てたのかもしれない」、とそう思ったときはすでに勝負がついた後である。

株式会社インターコム
代表取締役社長 高橋 啓介


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