【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第8回 短所と長所は裏返し 2014年6月18日配信

会社を創業して15年目に、台湾(台北市)に台湾インターコム(台湾英徳康股扮有限会社)という子会社を作った。この会社を設立した目的は、日本で商品化したPC向けのテレフォニーソフトを、台湾を介して世界中に販売するためだった。

もとより台湾企業は、自国の商品を海外企業へOEMしたり、輸出したりするグローバル戦略ができていた。彼らとパートナーを組み、彼らのアドバンテージや販売のためのハブ機能を活用できれば、自分たちが作った商品を台湾ルートで世界中に流すことができるのではないかと思ったのだ。何よりも強く思ったのは、グローバルで完全に出遅れている日本のソフト業界に一矢報いることだ。

当社のような小さなソフト会社でも、海外でビジネスが成功できるのではという当時の若さゆえの勢いのようなものがそうさせたのかも知れない。しかし、期待や思いとは裏腹に台湾のビジネスでは様々な苦い経験をした。その一例が言葉の壁だった。

台湾インターコムは、日本からは管理部門と営業部門の2名が参加し、社長は昔からよく知っている台湾人にお願いした。開発のエンジニアは全員現地から採用し、合計5名でスタートした。私は、必ず1か月に1度か2度訪台して会社の様子をウォッチするようにした。

会社を作って最初に面食らったのが、採用した台湾の若い社員たちである。6、7名ほど採用したが皆一流の大学を出ていて、そのうち数名は院卒のエリートだ。全員英語はペラペラだが、日本語はまったく喋れない。私はそのときまでに10回以上訪台したが、日本語を知らない台湾人に会ったのは初めてだった。

これまでホテルでもレストランでもタクシーでもどこへ行っても日本語が通じていたが、台湾のIT業界では英語が必須で、英語を話せないと仕事にならないことを初めて知った。彼らと初めて顔を合わせたときに、向こうの社長から英語で挨拶してくれと頼まれたときは本当に肝を潰した。

商談は、必ず英語で行われる。数少ないボキャブラリと中学以下の簡単な英語しかできなかった自分には、これから台湾でビジネスを進めるのがとても重荷になってしまった。私と同様に日本から出向いた当社の社員も、これを機に英語を勉強しなければならない羽目に陥ってしまったのだ。

台湾では毎年6月に、COMPUTEXと呼ばれる「台北国際コンピューター見本市」が開催される。今年も世界170か国以上から4万人近い人が集まるアジア最大規模の見本市で、出展社数は1700社、5000小間以上。最大の特徴は、バイヤーが世界各国から集まり、ブース内で膝を交えての直接商談だ。ショー的要素が強い日本の展示会とは、規模も派手さもビジネスの深さもまるっきり異なる。

台湾インターコムも、自社で商品化したソフトを展示するため毎年ブースを構えていた。バイヤーとの話し合いはすべて英語が基本だ。どこのブースでも、どんなに小さな会社でも説明員は全員英語が話せる。日本の展示会のように外国人が来ると「今、英語ができる説明員を探してくるのでちょっと待って!」とはならない。

これはブースだけでなく、顧客を送迎するリムジンバスやタクシーの運転手もみな英語が器用に喋れる。まさに台湾では、ビジネスはグローバルが当たり前になっているゆえんだ。GDP世界25位の台湾ビジネスの源泉はここにあるような気がする。国に資源がない、国内市場が小さいゆえに多くの人がグローバルで戦える知恵と交渉力を備えている。まさに短所が強さになっているのである。

余談ではあるが、最終的に日本からは都合3名の社員が4~6年ほど常駐したが、日本に戻ってきたときはみな英語が喋れるようになっていた。

数年前、ベトナムのダナン市にある小さなソフト会社へ訪問したときのことだ。向こうの社長に案内してもらい社内を見学すると総勢50名ほどの社員がいた。全員が20~30代の若者。日本と違って40代以上の社員が見当たらなかった。驚いたことに社員全員が英語を喋ることができる。経営者やエンジニアばかりでなく、アドミニストレーターや品質検査、ヘルプデスクの社員もだ。

後で聞いたところ、ベトナムではIT企業は花形の職業でサラリーも他の職種に比べて高めに支給されているとのこと。そのため優秀な若者が競って就職してくる。しかし、ITを使うユーザー企業はそれほど大きく育っていないため、顧客は海外がターゲットになっているそうだ。

そんなわけで英語を使わなければ仕事にならない。そのため英語ができることを入社の前提条件にしているとのことだった。ここ数年、日本からの依頼でオフショア開発も盛んになってきて、最近では日本語を勉強している社員も増え始めているとのこと。

ベトナム国内の市場規模が小さいからこそ仕事は海外から受注する。そのことが外国語を話せるモチベーションになっているというわけだ。出身は国立系有名大学卒が多く、日本に比べるとIT企業に就職する条件はかなり厳しいようだ。こんな若者がどんどん育ち、グローバルで日本の若者と競争したらどうだろうか、日本の将来が少し心配だ。

我が日本は、GDP世界3位の経済大国である。台湾と同様に島国であり資源にもあまり恵まれていない。幸いにして台湾と違うところは、国内の市場規模が「そこそこ」あるということだ。資源に恵まれていない分、技術立国日本というアイデンティティーで「知恵と技」を駆使し、様々な分野で世界をリードしているといっても過言ではないだろう。

しかし、最近の日本のIT業界はどうかというと、半導体、PC、携帯電話、スマートフォンなど数年前まで世界を圧巻していた分野で、今やその勢力は微塵も見られない。我々のソフト業界も同じだ。グローバル市場で活躍している日本のソフト会社はたぶん皆無だ。なので、普段は英語を話す機会もほとんどないし、話さなくても済んでしまう。

国内の市場規模が「そこそこ」あるのは自分たちにはとても幸せなことだが、その余裕やゆとりが、世界と競争するための能力を削いでいるのではないかと考えてしまう。まさに長所が弱さになっているのではないかと思う。

以前、Sound Blasterで有名なシンガポールのCreative社に訪問したとき、社長から言われたことがある。

「日本のIT企業はなぜ国内だけでビジネスをするのか、どうしても理解できない。ITはグローバルが当たり前、日本だけでビジネスをしているのでは市場があまりにも小さい。日本でもIT以外は世界に進出している。ITだけがなぜ?」と。

株式会社インターコム
代表取締役社長 高橋 啓介


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