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【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第16回 ピンチをチャンスに変える! IT企業の地方創生 2015年2月18日配信

「ここもか!」
最近、地方に行った際よく見かけるシャッター通りのことである。

たまに伊豆や熱海などへ旅行に行くが、東京に近い観光地でさえも商店街のシャッター通りを目にする。自分の生まれ故郷である南房総に帰省したときも、メイン通りにあるお店のシャッターが下ろされていた。

以前なら、洋服屋も、肉屋も、八百屋も、パン屋も、魚屋も、どのお店もみな活気に満ち溢れていた。しかし今では、一番忙しいはずの土日でさえシャッターが下り、人通りもまばらで静まり返っている。若者の姿もほとんど見かけない。歩いているのは高齢者ばかり目につく。静けさを破って車だけが街を往来している。

休日、「ぶらり途中下車の旅」というテレビ番組を見ることがある。タレントが勝手気ままに電車を乗り継ぎながら気に入った街を一人歩きする、といった趣旨の旅番組である。ちょっと変わったB級グルメや、穴場を発見しながら、地元の人々とのふれ合いを通してプログラムが進んでいく。しかし、カメラが一歩都市部から離れると、すぐさま画面の中にシャッター通りが飛び込んでくる。

どうやら最近は、都市部以外こうした状況が全国的にまん延しているようだ。いったいいつごろから、こうした状況になってしまったのだろうか?

自分が幼少のころは、田舎でもシャッター通りはなかったし、言葉すら存在しなかった。街はいつも人々の往来で賑わっていたことしか記憶にない。今、自分は田舎暮らしをしていないが、最近こうした故郷の変貌ぶりを見ると、とても寂しい気持ちになる。

安倍政権が声高らかに「地方創生」を発表したのは昨年のことである。人口の減少と東京集中の両問題の解決策として「地方創生」を位置づけ、住みやすい地方の再構築をテーマにしている。

以来、この数か月の間に、当社にも各地の自治体(県、市)から過疎地域の活性化を目指した企業誘致の話が舞い込んできた。地方の衰退については新聞やネットで多少知っていたつもりだが、改めて役所の方々から詳細をお聞きすると、想像以上にその疲弊ぶりに驚かされる。

とにかく、今、地方では若者の働く職場が少ないことが一番の問題らしい。

ここ数年、多くの若者が地元で働くことを諦め、就職ニーズが豊富な都市部へ流れていってしまったとのことだ。その結果、地方から若者が消え高齢者ばかり残る過疎化地域ができてしまった。

今、地方ではこうした人口の流出と流入の問題が喫緊のテーマとして大きくクローズアップされている。生まれてくる子供の数は減り、反対に高齢者は増え、さらに高度医療にも助けられ高齢者の寿命が延びることで街全体の高齢化も進んでいる。

地元で働きたい若者は沢山いるが、働ける職場がないため暮らすことさえもままならない状況だ。もし受け皿会社があれば都会に出て行く必要もないし、実家もあるので「Uターン転職」して戻ることもできる。さらには、都会生まれの若者が地方の住みやすさや優しさに憧れ「Iターン転職」することも十分可能だ。故郷が「地方の復権」を取り戻すには、やはり雇用の創出が最優先課題となる。

若者たちが安心して働ける場さえ確保できれば、閉じられた街のシャッターを再び開けることも夢ではなくなるというものだ。

我々IT業界に目を向けると、大部分のリソースが東京や都市部に集中して、人件費やオフィス家賃、研究開発費、販管費などのコストも、うなぎ昇りに高騰し事業運営の妨げになっている。

また、若者の間に安定志向がはびこり、優秀な人材は業績が良い大企業ばかりに就職するようになってしまった。最近では中小のベンチャーは優秀な人材の確保が本当に厳しい。IT業界は、仕事量は十分あるのにそれを熟す人材の不足とコストの高騰などで、地方のニーズとミスマッチを起こしている。

そんなことから、この数年多くのIT企業は大量のエンジニアの雇用確保や低コストの人件費を求めて、中国、ASEAN諸国へソフトウェア開発やコールセンターなどの業務委託をするようになった。いわゆる「オフショア開発」と呼ばれるやつである。

最近、こうした地方とのミスマッチを解消する1つの解決策として「オフショア開発」以外に、業務の一部を地方にシフトさせる「ニアショア開発」をスタートさせる企業が出始めてきた。

都市部で必要な業務は、商品などの販売、営業、企画、マーケティング、そして管理である。一方地方では、商品開発や品質検査、そしてコールセンターなどの顧客支援ができる。この分業によりコストがかかる都市部での業務は大幅に削減できる。

地方にシフトした分は、低コストのオフィスと人件費で回収可能なビジネスモデルとなる。地方に仕事が生まれて雇用が促進できる。そして「ニアショア開発」により、これまで難しかった技術ノウハウの蓄積や顧客とのフェースツーフェースのコミュニュケーション、自前の顧客支援センターで品質の良いユーザーサポートなども同時に可能となる。まさに、いいことずくめである。

さらに、地方の役割は、まだまだ沢山あるような気もする。

例えば、最近聞いた話。
中国のあるIT企業が日本の田舎街に電子部品コネクターのアッセンブリ工場を作った! 「えーッ、これって逆さまじゃないの。人件費の高い日本国内に工場を作って本当にやっていけるの?」というのが、この話を聞く前までの私の考えだった。

しかし、この問いへの答えは「Yes」であることがわかった。
地方だと、今なら国や自治体から雇用創出のための助成金や、企業進出のための補助金制度を上手く活用することで、設備投資や社員の雇用のためのイニシャルコストなどが抑えられる。

ある自治体では、市町村の統廃合や人口の減少で不要になった公共の幼稚園、保育園、小中学校などの公共施設の再利用が可能だ。さらには働ける企業を求めて、地元には若い社員、アルバイト、主婦などが大勢いる。必要ならIターンやUターン人材も求めることができる。

中国やアジア諸国と比べると人件費は高いのかも知れないが、社員の帰属意識は高く流出も少ないので継続して仕事が流せる。何と言っても責任感が違う。また、海外企業でありながら商品に「メイド・イン・ジャパン」のブランドを付与することも可能となり、顧客に安心感を提供できる。日本国内はもとより、諸外国への輸出ビジネスも有利に動けるというものだ。

「ピンチをチャンスに」変えられる、これが地方創生ではないかと思う。我が日本や故郷に輝きを取り戻すため「地方の復権」を強く望んでいる1人である。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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