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【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~
第19回 慢心が招く、「今そこにある危機」 2015年5月20日配信
今回のコラムでは、創業から33年間の中で、会社の存続を脅かすまでに発展した3つの危機について書く。
■1件目
最初の危機は、会社を興してから12年目に起きた。
創業4年目のとき、初めてコンシューマー向けに商品化したのが、通信ソフトの「まいと~く」である。この商品は、時の流れに乗って、リリース直後からとてもよく売れた。創業10年目ごろには、このソフト1本で年間10億円以上を叩き出すほどのベストセラーに成長した。
また、日経BP社の「読者が選ぶパソコン・ベストソフト」で、9年連続で通信部門No.1ソフトにも選ばれた。まさに「まいと~く」は、インターコムの顔といえるほどの大型商品になった。
当社には、このソフト以外に「端末エミュレーター」や「EDIミドルウェア」などの企業向け商品もあったが、これらも並行してよく売れていた。会社は順風満帆。このころ、私自身も事業拡大の波に乗って、我が家の春を謳歌していた。
ところが2年後、この「まいと~く」のビジネスに暗雲が立ち込めてきた。インターネットの急速な普及とWindowsにIE(Internet Explorer)が無料でバンドルされてしまったことである。
低速な電話回線で使う「まいと~く」と比べ、高速なインターネットで音声や動画もできるIEとでは、「月とスッポン」の機能差となってしまった。時代の変化で「まいと~く」は一気にユーザーから取り残され、業績も天国から地獄へ転げ落ちてしまった。
「まだまだ数年は大丈夫!」と、高を括っていたのは束の間、当社の稼ぎ頭はたった数年で売上がゼロになってしまった。
「しまった!」と気付いたときはすでに、手遅れの状態になっていた。
インターネットの普及の速度に気が付かず、現状維持にどっぷりと浸かっていた自らの怠慢が、この危機を招いてしまったのだ。まさに「ダーウィン」が言っている、時代に変化できなかったことが原因である。
もし「まいと~く」1本だけでやっていたなら、たぶん会社は跡形もなく吹き飛んでしまったのではないかと思っている。今それを思い起こすと身震いさえ感じる。以来、私は極度の心配症になってしまった。
■2件目
一見うまくいっていたかのように見えたビジネスも、実は大きなリスクがマグマのように溜まっていた。
海外からユーティリティソフトを輸入しISP経由でBtoBtoCのASPサービスを始めたのが2001年。今ではクラウドが当たり前になっているネットビジネスも、当時は国内初のサービスということもあり知名度がなく、開始から4年ほどは顧客が付かず赤字を垂れ流していた。
ビジネスを半分諦めかけていた5年目、あるISPから10万本を超えるライセンスの大型商談が舞い込んだ。この契約を機に以後10数年間、順調にビジネスは拡大し最終的に毎月70万本ほどのオーダーをいただくまでに成長した。
しかし、ビジネスが大きくなるにつれ、ISPから不満の声が出始めてきた。大半がユーティリティソフトの機能や品質、あるいはバージョンアップに対しての不満である。
当然ISPは当社を経由して購入しているためクレームはすべて当社に向けてくる。ISPと海外ベンダーの真ん中に入っている当社は、商品やサービス内容を直接改修できない。情報やアイデアを提供したり、海外の開発ベンダーに出向いたりして、考えられることはすべて行った。
しかし、ベンダーからは、グローバル戦略や個別案件への対応、コストなどを理由に積極的な答えをもらうことができなかった。何回か直接話し合う機会も試みたが、いつも対立し、それが原因で双方に確執まで生まれてきた。
10数年前、このサービスの販売契約を交わしたときは「我々両社は今日結婚した。これからは協力して……」とまで言わしめた、あのときの気持ちはすでに消えかけていた。
しかし、このままでは何も解決しない。顧客が納得できる何らかの答えを出さなくてはならないと悩んでいた矢先、ISPから呼び出しがあり、とうとう最悪の「三行半」を突きつけられた。
大きなシェアを占めていたこの国内初のASPサービスも、急転直下、サービス開始から15年目でそのプロジェクトの幕を下ろした。おかげで当社の業績は大きくへこみ、事業計画の見直しにまで追い込まれた。
ユーティリティベンダーがもう少し日本の実情を理解し、せめて「お客様は神様」くらいの気持ちがあってくれたら、と思うと悔やんでも悔やみきれない。
当社自身ももっと何かできることはなかったのか? ベンダーが顧客の要望に答えられないなら、当社がもっと積極的に動いて、他のベンダーの商品に切り替えてもよかったのではないか? 後から考えてみるといくらでも解決策はあったように思える。
まさに後悔先に立たずである。
■3件目
少し古い話になるが、1991年ごろのバブル崩壊により、当社も例外なく深刻な打撃を受けた。
売上の大幅な減少に加えて、それまで事業拡大のため積極的に推し進めてきた新卒社員の採用や、展示会への参加、広告などの販管コストが大きく膨らみ、創業以来初の赤字を出してしまった。
「イケイケドンドン」でやってきた事業計画に、黄色信号が灯った。
この赤字転落を元に戻すため、役員や幹部の給与・賞与カット、人材雇用の中止、広告費のカットなど思い切って実践した。その中で一番厳しかったのは、社員のリストラを断行したことである。
数人だったがこのリストラは涙が出るほど辛かった。私としてもやってはいけない「禁じ手」をとうとう使ってしまったと、今も深く悔やんでいる。
今後もバブル崩壊のような事件は再び起こるに違いない。数年前にはリーマンショックによるサブプライムローン危機が起こり、日本の平均株価も6000円台までに下落したことはまだ記憶に新しい。
どの会社でも同じだと思うが、確実な売上や利益というのは存在しない。売上は水ものだがコストは毎月確実にかかってくる。
経営者の立場からいえば、多少会社内の空気が重くなったとしても、幹部や社員間のコミュニケーションが「ぎくしゃく」しても、リスクに関わることはすべて是是非非でやっていかなければならないと心を鬼にしている。
そのときだけいい顔して、後からリストラや給料カットをやったのでは皆に申し訳が立たない。
自分の中で、これまでに経験した様々な失敗やトラブルから生まれた極度な心配性が、今は会社の運営に少しは役立っているように思える。
株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介
設立40周年動画
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