【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第23回 謝り方の研究 2015年9月16日配信

企業や役所が不祥事を起こしたとき、よく見かける謝罪会見。
報道カメラの前で、責任者が揃って頭を下げる姿はどのシーンでも同じだ。頭を深々と下げた途端、何十というカメラのフラッシュが「バシャ! バシャ! バシャ! ……」と一斉に光を放ち、会場は異様な雰囲気に呑み込まれる。

最近では、テレビで謝罪会見のニュースが流れるたび、「またか!」と思うほどいつも似ていて少々滑稽にも思えてしまうのは私だけだろうか?

こうした不祥事での対応は、近年ではどの企業も相当研究しているらしく、またガバナンスの観点からか、日本国内では皆同じやり方にしているようだ。それでも毎回同じシーンを見ると、「他社もそうしているから、とりあえず謝っておく」「責任者なのでセレモニー的にやらざるを得ない」といった思惑が見え隠れする感じがしてならない。

謝罪会見を見た外国人がテレビのインタビューで、「これって、武士道の精神じゃないの!」と答えていた。日本人の礼儀正しさのようなことは感じとれたとしても、型通りの謝罪シーンを見て何か妙な感じはしないのだろうか?

33年間の社長時代には、お客様やパートナー様に謝罪しなくてはならないことが少なからずあった。状況や対策を説明した後は、「申し訳ありません」「おっしゃる通りです」と先方が許してくれるまで繰り返し謝るしかない。時間稼ぎや言い訳はもってのほかだ。

しかし、本音は謝罪には行きたくない。とはいっても場合によっては、社長が出て行かなければ収まらないときもある。

数年前、取引で発生した不祥事を解決するため、相手先へ出向いて責任者の方に何度も平謝りして事なきを得た苦い経験を持っている。その日は、前日の出張とも重なって、精神的にも肉体的にも疲れ果て、翌日は帯状疱疹で会社を休んでしまった。謝るのは本当に難しいし、体力もいる。

近頃では企業が陳謝する際、「申し訳ありません」だけでは済まないことも多くなってきた。損害賠償の声が脳裏をかすめることもある。そんなことが起きないよう当社でも、品質面、法務面、人事面でもガバナンスを強化して会社を守れる体質にしておかなければならないと思っている。

数年前、ある大手銀行からM&Aがらみのコンサルを受け、その事業資金をお借りする話が持ち上がった。借入資金としては結構大きな額だ。支店の担当者と何度か交渉し、トントン拍子に話が進んでいた。

しかし、最後の詰めで本店の貸付担当者からまったく違う条件を提示された。今まで積み上げてきた話は何だったんだと、我を疑うほど一方的で理不尽な内容に書き換えられていた。

貸付担当者から説明を受けている途中、とうとう私の肝心袋の緒が切れて、かなり強い口調で「今回の話はなかったことにしてほしい」と言ってしまった。頭に血が上り、身体がブルブルと震えていたことを今でも憶えている。

後で担当者間のコミュニケーション・ミスだったことがわかったが、私が激高したことに彼らはかなりビックリしたようだ。

ところがもっと驚いたことがその後に起こった。本店の担当者が去った後、支店の担当者が私に土下座して謝るではないか! 顔が地面に付きそうになるほどひれ伏して、「申し訳ありません」の連呼。

なぜ土下座したかはすぐ理解できたが、生まれて初めての経験だったので、今度は私の方がビックリしてしまった。と同時に、不思議なことにあれだけ逆上していた私の頭の血がスーッ! と引き、気持ちが和らいでくるではないか。そして、「そっ! そこまでしなくても、さっ! 手を上げてください……」と、今度はこちらの方が恐縮してしまう始末。

そのとき私は、若い行員でもいざとなれば結構やるものだ! と妙に感心しながら、以前テレビで見た「半沢直樹」の1シーンをこの行員の土下座シーンに重ね合わせて思い出した。

謝り方にも色々あるが、こうした日本独特の古い作法は、今後も通用するかはわからない。特にグローバルな世界では……。

まだ記憶に新しいタカタ製の車載用エアバックの欠陥問題。トヨタ、日産、ホンダをはじめ日米欧の多くの自動車メーカーに採用されていたため、結果的に3000万台を超す空前のリコールが発生した大事件である。

国内ではいつもの謝罪会見と記者団からの質問攻めであったが、米国では米議会公聴会で議員からの厳しい追及を受けている。新聞によると、公聴会で「リコールを裏付けるデータがない」とする反論や対応の遅れが、会社は安全性より利益を優先していると見られ、巨額の罰金や被害者救済の補償基金の設立まで科せられてしまった。

トラブル回避に向けて初動ミスが致命傷となったのは、ご存じインスタント焼きそば「ぺヤング」の異物混入事件だ。事の起こりは、麺の中に虫が混入している写真がツイッターで公開されたことである。

異物が発見されたときのメーカーの対応は、購入者からその商品を買い戻すと同時にネット上から写真を削除するよう要請した。しかし、そのことがかえって購入者の反感を買い、結果としてネット上で「炎上」するまでに発展してしまった。

さらに、メディアからの取材では責任を否定する反論が目立ち、反発を招いている。その後、メーカーは生産を完全停止すると共に、全国のスーパーやコンビニから商品を一斉撤去した。

初めてこのニュースを知ったとき、ここまで本当にやる必要があるのかと同情もしたが、初期対応で一旦疑惑が向けられてしまうと、やることが後手に回り取り返せなくなる。

こうした事件は今後も再び起こるだろう。

結論として、不祥事を起こしたときの陳謝の仕方は企業や責任者により様々であるが、はっきりしていることは「誠意ある対応」「責任ある対応」「素早い対応」が必要不可欠だろう。

これを怠たり簡略化してしまうと、その後に10倍返しの責任問題が起きるということを肝に銘じたい。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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