【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第25回 我が街にコンビニがやってきた! 2015年11月18日配信

1981年に分譲がスタートした私の住む街は、戸建てがズラーッと1600戸も並ぶマンモスタウンである。分譲スタート時に建てられた家は、すでに35年近く経過して老巧化が進み、最近では建替えやリフォームする家も目立ってきている。

この街へ最初に住み着いた住民は、私と同じ団塊の世代である。すでに定年退職などで一線を退いた人が多く、今では彼らの子供である団塊ジュニアも結婚適齢期を迎えている。

ほとんどの家が建売りで、二世代住宅向けに建てられていないため、結婚適齢期を迎えた子供達は同居を嫌い自然と親元を離れていくとのことだ。年々、核家族化が進み、最近では街全体が高齢化社会を迎えている。

毎朝、犬の散歩をしている人を沢山見かける。夜は夜で夫婦揃ってウォーキングする人達もいる。ほとんどの人がシニア層以上であり、時間を持て余している人が多い。このごろは、朝の通学や通勤時間帯以外、通りや公園で子供や若い夫婦を見かけることが少なくなってしまった。

多くの家にはマイカーがあり、多い所では夫婦で2台以上所有している。最近は、買い物や旅行、通勤など、どんな所へもマイカーで出掛ける車社会になってしまった。

私の隣の家には80歳を超えた老夫婦が住んでいる。おばあちゃんの方が車の免許を持っていたが、3年ほど前、運転に自信をなくして免許証を自主返納したとのことだ。それじゃ買い物はどうしているのかと、少し心配もする。

街ができたころは、街の中心部に東急ストアがあった。また、自宅前のバス通りにはコンビニもあったし、その隣には、コーヒーショップ、酒屋、パン屋、八百屋、歯科医、クリーニング店、喫茶店、そして銀行の支店までも集まっていた。

それぞれのお店が街に直結していて、手が届くところで用事が済んだ。スーパーは自宅から徒歩で行けたし、コンビニにも昼夜問わずいつでも行ける利便性があった。

会社から帰ったとき、ビールやおつまみが切れていれば、夜遅くてもサンダル姿で行けた。アイスクリームを無性に食べたくなったときにも、気軽に行ける安心感がコンビニにはあった。

ところが長い月日が経つと、街から1キロメートルも行かないところに、東急ストアより大きなスーパーがオープンした。またしばらくすると、その近くに別のスーパーが1軒、そしてまた1軒と建ち始めたのである。

そうなると住民は、品揃えが多く、価格が安いスーパーで日常のすべての買い物を済ますようになってしまった。私もその一人だ。

当然のように、東急ストアをはじめ小さなところは固定客を奪われ、数年後にはほとんどのお店がドミノ式に撤退を余儀なくされてしまった。悪循環のスパイラルは、一番ニーズが大きかったコンビニからもお客を奪い閉店に追い込んでしまった。銀行の支店も撤退して無人のATMだけが残った。

東急ストアがあった空き地には新たな住宅が建ち、二度とスーパーが建てられるスペースは無くなってしまった。

その数年後、一度撤退したコンビニが再びオープンしたが、客足は相変わらず他のスーパーに向かい、結局のところ、このコンビニもまた何年かして閉店する始末。

こうして、私が住んでいるマンモスタウンは10年近くも自分の足で直接買い物に行ける最高の環境を失い、不便な街に変わり果ててしまったのである。

ところが、である。
1年ほど前から、再び街にコンビニができる話題が出始めた。

本当ならこれで3度目の正直となるところだ。ただ、今回は以前と少し状況が違い、街の住民からの「大きな声」で出店が決まったのである。

これまでのコンビニに対する住民の意識は、「コンビニは便利だが、毎日の買物や週末のまとめ買いは、品揃いが多くて、値段の安いスーパーでする」と、必ずしも協力的でなかった。

また、「コンビニが近くにあると毎晩のようにお店の前で若者がたむろして騒がしい。夜中まで明かりが煌々として眠れない」などと、クレームや不満を抱いている住民も少なからずいた。

しかし、今回は、「やっぱりコンビニは近くて便利だし、24時間いつでもやっている。必要なものがすぐ手に入る。もう一度コンビニを通して街を元気にしようじゃないか。長く居てくれるよう皆で率先して買い物に協力しよう!」と変わってきた。

住民の高齢化がモチベーションとなり、住民達自らがコンビニの必要性と誘致を強力に訴えたのである。その要請は各家庭から家庭へと回覧板で伝わり、小さなプチ住民運動までに発展した。

私は当然賛成に一票投じた。「もしコンビニ企業の方から協力が得られなければ、住民有志が何名か集まってコンビニを自ら経営しようじゃないか」との意見をしたくらいだ。

人間というのはわがままな動物である。

当たり前のように与えられていれば何も考えないが、一度失うと事の大きさや、ありがたみが身に染みてわかる。高齢化社会を身近に迎え、体力や足腰も弱まり、眼も悪くなって、夫婦二人きりの生活にでもなれば、なおさら強く実感するだろう。

隣のおばあちゃんのように、車を使わない生活になった場合、バスで出掛けるのは億劫だし、時間もお金もかかる。やはり、歩いて行けるコンビニがあれば、24時間必要なものを買える。

シニア層にとって街の中にあるコンビニは、最高の環境ではないかと、失ってからようやく気が付いた次第である。

実は、このコラムを書いている日が、そのコンビニのオープン日だった。

今朝、お店の前を通ったときは、どこから来たのか小さな子供を連れたご夫婦や若い人達でお店はごった返していた。そこでは、久々に活況がある風景を見ることができた。

今は、このコンビニがずっと続くように応援したいと思っている。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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