【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第30回 裏側にこそあるビジネスの本質 2016年4月20日配信

最近BS放送で観た『もうひとつのショパンコンクール ~ピアノ調律師たちの戦い~』は、実に興味深い番組だった。

ポーランドで5年おきに開催される「ショパン国際ピアノコンクール」は、優れた若手ピアニストの発掘を目的とした、ショパンの作品で腕を競う一流ピアニストへの登竜門である。

このコンクールでは、ピアニスト達の舞台裏でピアノメーカーや調律師の熾烈な戦いが繰り広げられる。ピアニストがベストコンディションでコンクールへ臨むには、メーカーから派遣されたプロのピアノ調律師が重要な鍵を握る。優勝すれば、そのとき使われたピアノが一気に注目を浴び楽器メーカーの販売に大きくつながるという訳だ。

驚いたことに、海外も含めどのピアノメーカーも日本人の調律師で多く占められているとのことだ。これほどまで日本人がピアノの音を聞き分ける繊細な「耳」や「テクニック」を持っているとは思いも寄らなかった。

彼らは、チューニングや保守はもちろんのこと、あるときはピアニスト個人の精神面やフィジカルな面まで入り込んで手厚くサポートする。

そこには、いかにも日本人らしい気配りや繊細さが十分発揮されていた。
調律師のサポートなしに、彼らの優勝は望めないといっても過言ではない。

例えば、ピアニストが思った通りに演奏できず、泣いたりしてしまうと、調律師も肉親のように一緒に涙する。入賞が決まれば互いに抱き合って喜びを分かち合う。

メーカーは、ピアニストが宿泊するホテルの部屋ごとに自社の電子ピアノを貸し出して、夜中でも練習できるよう手厚いサービスをアピールする。こうすれば、貸し出した楽器メーカーの癖などが少しでもわかり、早く慣れて、本番で自社のピアノを選んでくれる可能性がある。

今回のピアノコンクールでは、アメリカからは「スタインウェイ」、日本からは「ヤマハ」と「カワイ」、イタリアからは「ファツィオリ」らの世界の大手ピアノメーカーが社運をかけて参戦していた。

「ヤマハ」は、世界中の演奏会でよく使われていることは知っていたが、もう一方の「カワイ」がこれほどまでグローバルで善戦しているとは私自身思いも寄らなかった。

格式高い国際コンクールで、日本のピアノメーカーが2社も選ばれていることに一日本人としてとても誇らしさを感じた。と同時に、「スタインウェイ」以外のすべてのピアノメーカーの調律を、日本人が担当していることにも驚きと誇らしさを感じた。

一次予選、二次予選、三次予選と勝ち進んでいくと、ピアニスト達はその都度、自分の曲想に合わせて、4つのメーカーから自分の好みのピアノを自由に選ぶことができる。

そのため、今まで使われていた楽器は、次の予選ではいとも簡単に他社メーカーのピアノへ乗り換えられてしまう危険性を持っている。同時に、あれだけ親身になって奮闘してきた調律師も、楽器と一緒に「ポイ捨て」される憂き目に合う。

反対にピアノメーカーは、他社から自社へ乗り換えてもらう急転直下の大チャンスが巡ってくる場合もある。コンクール中はチャンスとピンチが常に表裏一体となり、メーカーにも調律師にとっても最後まで手を抜けないシビアな戦いが続く。

しかし、彼らがどんなに手厚くサポートしても、当然だが、最終的にはピアニストの腕一つで優勝(あるいは入賞)が決まってしまうのが現実である。

2015年のコンサートで優勝したのは、「スタインウェイ」を選んだ韓国のチョ・ソンジンという若いピアニストだった。2位はカナダのシャルル・リシャール=アムランというピアニストで、ファイナルでは「ヤマハ」を選択していた。

「ヤマハ」は予選から10名中7名が選んでいたので、今回の大会では「ヤマハ」の一人勝ちになるのではと囁かれていた。しかし、ファイナルを迎える段になって「ヤマハ」から「スタインウェイ」に鞍替えするピアニストが続出。最終的には「ヤマハ」と「スタインウェイ」が半々となって一騎打ちになった。

そして、優勝は「スタインウェイ」、2位以下は「ヤマハ」が独占するというエキサイティングな結果となった。

この中で興味深かったのは、ファイナルでアジア系のピアニストの5名中4名がアメリカの「スタインウェイ」を選択、欧米系のピアニストは5名中4名が日本の「ヤマハ」を選択するという興味深い現象も見られた。なかなか面白い。

私はこの模様をテレビで観ながら、「ピアノコンクール」のような優雅さはないものの、自分達のビジネスの中にも、これと似た厳しい現実が存在しているような感じがした。

当社のような法人向けの間接ビジネスでは、エンドユーザーに自社商品を購入してもらうため、様々な販売やマーケティング上の戦略が必要になる。

特に、当社にとって重要な取引先となる有力販社(SIer、リセラー、ディストリビューターなど)と密着してシェアを拡大していくには、競合他社に劣らない積極的な対応や支援が不可欠である。

なぜなら、彼らは数千~数万点という商材をすでに抱えており、この中から特別に当社の商品を取り扱ってもらうため、彼らが「売りたい」と思うインセンティブやメリットを供与できなければ、絶対に商品は売れないからである。

さしずめ「ピアノコンクール」の世界ならば、ピアニストに無限の愛を捧げるピアノメーカーや調律師の対応といったところだろうか!

例えば、販社の営業と同行セールスしたり、彼らが主催するセミナーや展示会へ積極的に参加したりするのもその一つだろう。もしもエンドユーザーからカスタマイズを要求されれば、それに応えていかなければならないときもある。

同時に、当社自身でも新聞やインターネット上に広告を出し、販社が売りやすくなるような対策を講じることも必要になる。購入を検討されているエンドユーザーに商品を貸し出して、商品の使い勝手などに慣れてもらったりすることも採用への近道になる。

こうしたことは、メーカーの楽器に慣れてもらうため、コンクールの最中、ホテルの各ピアニストの部屋に電子ピアノを貸し出すとことと似ているかも知れない。

しかし、最終的に商品を選ぶのは販社に加盟するサブディラーやエンドユーザーであり、当社のこうした努力は、必ずしも100%報われる保証はない。

ただ、日々のこうした努力を怠たると、簡単に競合会社に負かされてしまうこともあれば、販社から簡単に見捨てられてしまう可能性も十分にあり得る。

ビジネスの裏にこそ、ビジネスの本質があるような気がしてならない。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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