【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第32回 嘘のような本当の話 2016年6月15日配信

私は「団塊の世代」の人間だが、そう呼ばれるのがあまり好きじゃない。

「団塊の世代ってガツガツしている」「団塊の世代って品がない」などと一括りに言われるのが、まったくもって気に入らない。このコラムをご覧いただいている同世代の方々にもそう感じられている人が多いのではないかと思う。

しかし、一つだけ言えることは、「団塊の世代」は本当に食糧難だった。今回はそんな時代の「嘘のような本当の話」を書こう。

私が子供のころは、食糧難に加えて家が貧乏だったため、今では考えられないような、とても粗末なものしか食べられなかった。特に小学生から中学生にかけて、今思い出しても、何か特別に美味しい物を食べた記憶がほとんどない。

私が住んでいた所は、千葉県の旧千倉町。数年前に町村合併して、今は南房総市となっている。農業と漁業と観光が主な産業で、人口が4万人程度の小さな市である。

当時、家で食卓に上がるおかずと言えば、地元で採れた魚と野菜ばかりで、肉や加工食品などはほとんど食べることも見ることもなかった。特に、朝晩は毎日その日に採れた魚が出て、それが原因で本当に魚嫌いになりかけたほどである。

3か月に1度、わずかな肉が入ったカレーライスが私にとっては随一のご馳走だった。一旦カレーが出ると、その日の夕食と次の日の朝食、そして場合によっては弁当にまでカレーが入ってくることもあった。しかし、それでも十分満足していた。

そんな時代、私が一番食べてみたいと心の底から思っていた食べ物は、あの『バナナ』である。これは冗談ではなく、本当に一度でいいから食べてみたいという強い願望を持っていた。しかし、当時バナナは、私の町ではほとんど目にしたことがないとても貴重で珍しい食べ物であった。

そんなある日のこと、この憧れのバナナで、私にとって奇跡のような事件が起こった。

町の近くを台風が横断したとき、海外からやってきた貨物船が海岸近くで座礁して、積み荷のバナナが箱ごと海に流されるという事件が起こった。そのため、真っ青なままのバナナの房が、家近くの浜辺にどんどん流れ着いたのである。

まさに童話の桃太郎のように海からバナナが「ドンブラコ、ドンブラコ」と漂流してきたのである。この情報は誰からともなく、朝一番で町中の人の耳に入った。そしてこの“うわさ”を聞きつけた大勢の町民が浜辺に押し寄せ、流れ着いたバナナを何十房も拾い集めたのである。

このとき、たしか役所からは、まだ検疫が済んでいないので絶対に拾わないようにとお達しがあったと憶えている。

しかし私にとってはそれどころではない。こんな千載一遇のビッグチャンスはめったにない。とにかく食べたい一心で、兄と一緒に持てる限りのバナナを自宅に持ち帰り、そして家中のあちこちに隠し込んだのである。

それから、最初の一口までがとても長かったように記憶している。毎日、毎日バナナの状態を観察しては、熟して色が黄色くなるまで首を長~くして待ち続けた。そしてとうとう数週間後には、家族揃って生まれて初めてのバナナを賞味したのである。

バナナの皮を剥いたときの嬉しかったこと。なんとも言えない独特の甘い香り。口に入れたときのねっとりとした食感と味は、それまでに思い焦がれた想像を遙かに超えて、これまでに味わったことがない「外国の味」がした。

これが、あのバナナなんだと、一口一口噛みしめるようにゆっくりと食した。貴重なバナナである。当然毎日1人1本ずつだった。

今、バナナは食べる機会が少なくなってしまったが、たまに奥方が買ってきたりすると、あのときに経験したあのバナナの香りや味を想い起こす。私にとっては子供のころの一番の思い出かも知れない。

さて、最近の私の食生活というと、年齢を重ねたせいもあるが、若いときとはだいぶ変わってきた。食べる量は少なくなったが、その分、質が良くなってきたと思っている。

このごろは、奥方から就寝前にこんなことを質問される。
「明日の朝、どちらにしますか?……」と。

「どちらに?」というのは、明日の朝食を和食にするか洋食にするかという、他人からすればどうでもいい、他愛のないことである。

実は、私のわがままで、もし洋食ならば、できるだけホテルのようなお洒落なメニューにして欲しいと奥方にお願いしてある。和食の場合は奥方に一任ということになっている。

本コラムをご覧いただいている方の中には、「なんて無茶ぶりを言う奴だ」と思われる方が多いかも知れないが、とにかくお願いしてそうしてもらっている。

今思えば、昔と違い随分贅沢になったものだ。私は洋食でも和食でも必ずきちっと摂る。私にとって1日3度のご飯の中で朝食が一番美味いのである。なので、日頃から朝食をとても大切にし、そして充実させたいと思っている。朝食が食べられなくなったら、自分の寿命が尽きるときかも知れないとも思っているぐらいだ。

「ホテルのようなメニュー!」は、数年前、終活の楽しみの一つとして、朝食ぐらいはホテルのような「優雅が山盛り」になった食事を楽しみたいと思い付いたことが始まりである。

どのくらい優雅かというと、よく出てくるのが、フォションのチーズブレッド、または通常の2、3倍厚い我が家お手製のタマゴサンド、搾りたてのオレンジジュース、大好きなかぼちゃのスープ、カリカリベーコンと卵料理、色とりどりなサラダ、そしてコーヒーとフルーツ……、と大満足なごちそうだ。

最近ではこの「ホテルのような……」をさらに演出するため、休日のよく晴れた朝には自宅のベランダに出て、庭先での朝食など気取ったこともしている。夫婦で手入れした自宅の庭で、朝食を摂るというのは案外優雅な気分にもなれるというものだ。休日のお昼近い時間ならワインを飲むこともある。

このシチュエーションが何とも気持ちいい。

また、週末には奥方と朝の散歩のついでに、通りがかりのレストランでブランチと洒落込むようなこともする。これはなかなか楽しいので皆さんにもお奨めしたい。奥方もこの方が朝食の支度をしなくて済むのでウェルカムだそうだ。

「団塊の世代」の皆さん! 幼少時代の分まで、大いに食事を楽しみましょう!

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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