【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第34回 我が社の株主総会 2016年8月24日配信

「終わった! 終わった! 今年も無事に終わったな……」

株主総会が終わり、ホッと一息入れた瞬間である。
6月になると、多くの企業が株主総会を開く。

会社の付近でも、道路沿いで若い社員がプラカードを持ち、株主らしき人に道案内している光景をよく目にする。大手企業の株主総会ともなれば、大通りに何台かの黒塗りハイヤーが“ズラ~”と並び、何十人という社員が総出でお客様を待ち構える光景を目にする。

当社もこの6月に株主総会を開いた。
といっても、まだIPOを果たしていないので、通常の公開企業のような本格的な株主総会とまではいかない。それでも一通り正式にやる。株主様にもちゃんと招集通知を送り、総会へ来てもらうようにしている。

小規模ながら、当社が株主総会を開くようになったのは10年ほど前からである。当時IPOの準備をしていたこともあり、証券会社の指導の下で、本番に備えてスタートさせたことが始まりである。

総会を行う会議室の私の机の前には、『議長』と書かれた席札が貼られる。
また、外部から参加される株主様の机の前にも『株主』の席札が貼られる。
役員と株主様の机の上には、「第○○回定時株主総会招集のご通知」と印刷された書類が並べられる。これらに加えて、私の机の上だけに議事をスムーズに進行させるための「あんちょこ」が用意される。いわゆる議長専用の虎の巻である。これは管理本部が2、3日前に作成して私に渡してくれる。そこにはA4用紙10ページにぎっしりとシナリオが書かれている。 私はその内容を事前に予習して、議事をスムーズに進めることができるという訳だ。

朝10時きっかりのチャイムで総会がスタートする。
この時ばかりは一瞬、会議室にピーンと緊張感が漂う。
役員たちもダークなスーツでビシッと決め、いつものスマイルも抑えてこのときを迎える。心の中で「さー、やるぞ!!」と自分に言い聞かせ、まずは私から開会の宣言をする。

「皆様、おはようございます……」

そして、お決まりの出席状況の報告。続いて監査役報告に移り監査役にバトンタッチする。ここまでくると緊張感が解け、監査役報告に耳を傾ける余裕すら生まれる。

続いて、本日のメインとなる本年度の報告事項の説明に入る。
この報告のところで、当期の業績が良かった場合は、「その結果、当事業年度の業績は……」の読み上げを、一段と声を張り上げて朗読するようにしている。

この瞬間は結構気持ちが良い。自分でもわかるくらい声が軽やかになる。
しかし反対に、もし利益が出ていなかったら、どうだろうか?

株主様を目の前にしているので、たぶん、かなり重苦しい演技をするに違いない。このフィーリングは、幼少のころ、親に成績を通信簿で見せたのと同じぐらい嫌な感じであろう。幸いにして、当社はこの十数年間、一度の赤字も出さずにこれた。

もっと言うなら、インターコムを創業してから34年経つが、この間に赤字決算を出したのは創業時を含んで3回のみである。したがって、私は赤字で株主総会を迎えたことがない。

よくテレビなどで、注目されている企業の株主総会のシーンを見ることがある。長年無配を続けているとか、あるいは不祥事などを起こした企業になると、全役員が一斉に立ち上がり、ステークホルダーに対して深々と頭を下げるなど、いつもの“日本株式会社”の儀式が行われる。

さて、再び株主総会の話に戻そう。
「事業報告」に続き、より具体的な数字を説明するため「貸借対照表」や「株主資本変動計算書」の報告に入る。ここまでは、まだまだスムーズに運ぶ。

そして、次からがいよいよお待ちかねの「剰余金の処分」や「取締役選任」「監査役の選任」などの説明に入る。いよいよ、である。

このステージに入ると、いささか緊張感も出始める。
「剰余金の処分」は、株主様にとって最も重要なところだ。もしかしたらこれだけ聞くため総会に参加している人もいる。ここで何らかの良い処分案が出せないと、その後の議案の採決に伴う審議で厳しい質問が出る可能性もある。

当社の配当は、利益から連動する配当性向で決めるようにしている。
利益が出なければ配当も出ないシステムだ。
だからこそ、役員やグループ長は、1年中、業績の確保に奔走する日が続く。

配当の出し方は企業によってまちまちである。利益が出ていなくても、余裕がある企業では過去に積み上げた剰余金を取り崩して支払っているところもある。
しかし、それが経営上健全なのか、ちょっと私にはわからない。

再び話を戻すと、「取締役選任」や「監査役選任」は、役員会で事前に決めてあるので、この議案は株主に承認をもらうだけとなる。

しかし最近、大手企業の中には「取締役選任」のところで、現経営者と創業一族との間や親子の経営者間で、経営権や事業承継を巡りトラブルを起こしているケースも見られる。

総会で発表するいくつかの議案の採決にあたり、最後のクライマックスは、報告事項や決議事項に対しての質疑となる。
ここさえ無事に乗り越えられれば、総会はもう95%終了したのも同然だ。

私は、この質疑応答に備え、毎年、いくつかの想定問答集を準備している。株主様は何を聞いてくるかわからない。特に、いつも必ず手を挙げてくる株主様や、数字を細かく調べ上げてくる株主様に対しては、事前の準備は不可欠となる。

質疑応答で自分が不得意とするところは、議長権限を行使して、回答を他の役員にバトンタッチする奥の手もあるが、できるだけ自分自身で答えたいと思っている。できるだけ……。

10年前の最初の総会のころは、証券会社の担当も心配して、株主のフリをしながら議事進行を見守ってくれた。また、反省会で厳しいご意見などをいただいたこともあった。

総会のピークは、最後の議案の採決である。ここまでくれば、ほぼ総会は終了に近いだろう。
「本議案につきまして、ご賛成の株主様は、挙手をお願いします……」
で、手を挙げていただければ、総会は無事シャンシャンで終われる。

今年の株主総会は30分ほどで終了したが、私にとっては6月一番の「ロンゲスト・デイ」だった。10年間も続けてきた株主総会なので、IPOするかどうかには関わらず、例え世代が変わっても、今後もこれは続けて行きたいと願っている。

まずは、来年も頑張るぞ~!

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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