【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第42回 ふるさと納税 狂騒曲 2017年4月19日配信

「旨い!!」、一口食べた瞬間、思わず声が出てしまった。

数年前、同僚と新潟県にある湯沢温泉へ旅行に行ったときのことである。東京への新幹線を待つため越後湯沢駅構内でうろうろしていると、突然お土産屋さんから声を掛けられた。

何かと思えば、握りたての美味しい“おにぎり”があるから試食してみないかとのこと。魚沼産コシヒカリのPR販売だった。人一倍食い意地が張っている私は、当たり前のように手を伸ばし試食させてもらった。

見かけは何の変哲もない普通の“塩おにぎり”だったが、これが実に旨い。本当に美味しいのである。香りといい、柔らかさといい、もっちり感といい、はるか昔に母親が釜戸で炊いてくれたホカホカのご飯を想い出すほどの美味しさだった。

同僚達も「旨い!!」「最高!!」を連発。
たった一度の試食で、私はこの「魚沼産コシヒカリ」の大ファンになってしまった。

さて、ここ数年、ふるさと納税の話題をよく耳にする。

一昨年のある日、コンビニで何気なく書籍を眺めていると、ふるさと納税攻略本のようなタイトルの雑誌が目に留まった(正確な本の名称は忘れたが)。パラパラと開いてみると、そこには、自分の生まれ故郷など好きな自治体に寄付すれば、その返礼品として貰える全国各地の名産品がずらっーと紹介されていた。

興味がわき、ランキングのページをめくると、長野県飯山市の「幻の米」という新米にたどり着いた。全国のお米部門でNo.1として紹介されていた長野県のブランド米ある。

「お米か!!」と、思った瞬間、私の脳裏に、越後湯沢駅で試食した、あの「魚沼産コシヒカリ」の感動が再び込み上げてきた。

さらに、ふるさと納税の返礼品の中に、もしかしたら、「魚沼産のコシヒカリ」も含まれてはいないかと思い立った。そしてできればこの「幻の米」も味わってみたいと。

自宅に戻り、忘れないうちにパソコンからふるさとチョイスにアクセスして新潟県の魚沼市を検索すると、あるではないか、あの「魚沼産コシヒカリ」が。

しかも、魚沼市のトップページに堂々と紹介されていた。 流石に人気のブランド米である。早速、ホームページから「魚沼産コシヒカリ」と「幻の米」をそれぞれ20kgずつ、申し込んだ。以来、私は日本各地の美味しい物や珍しい物をいただき、日本の良さを楽しんでいる。

ふるさと納税の趣旨は、自分の好きな自治体に寄付をすれば、2000円を自己負担した後の額が来年度の所得税や住民税から控除されるという制度である。

東京や大阪など都市部に集中している税金を、税収の減少に悩む地方へ分配して、地域格差を是正すると言う目的で設けられた仕組みだ。

単純に税金を取られるというネガティブな発想から、同じ税金を使って自分の生まれ故郷や好きな自治体に恩返しができる、という前向きな考え方に切り換えられる。

この制度で地方の自治体は税収が増え、住民サービスの向上につなげられるようになる。当然、商品を納める業者も特需で潤う。しかもこれは毎年発生する。寄付をする我々は返礼品という形で、自治体から特産品や希少品などを、まるでネット通販からでも購入するような感覚で貰える。

ふるさと納税を利用すると、住民である我々も、自治体も、そして返礼品を納める業者もすべて得する「三方よし」となる。

ところが最近になって、このふるさと納税にも少しずつほころびが見え始めてきた。

魅力的な特産品を持てる自治体なら税収は増えるが、逆に返礼品が少ない自治体では、どんどん税収が減り始めてきた。当然と言えば当然だが、東京をはじめ近郊の都市部などでも、これまで確実に確保できていたはずの税収が減り始めている。

さらには、異常とも思える寄付金の獲得競争で、特産品が豪華商品へとエスカレートし、ふるさと納税として似つかわしくないと思える品々が次から次へと現れてきた。

テレビや炊飯器などの家電製品、外国製とばかり思っていたあのダイソンの掃除機、パソコンやタブレット、自転車や電動バイク、食事券やガソリン券や装飾品、高級旅館の宿泊券、はたまたヘリコプターの遊覧まで。

一番驚いたのは解体ショー付き生の養殖マグロまで返礼品に含まれている。

このことを利用して、換金性の高いIT機器や商品券などをゲットし、ネットオークションで現金に換える“悪知恵が働く”輩まで出てきてしまう始末。

はたして本当にこうした返礼品が地域の特産品やサービスと言えるのだろうか? ちょうどこの「コラム」を書き始めたとき、総務省が最近の底なし沼のような返礼品のエスカレートぶりに業を煮やし、3割を超える返礼率を見直すお達しを出したばかりだ。

それでも、ふるさと納税にはたくさんのメリットや魅力がある。

従来のように我々が収めた税金を自治体任せにするのではなく、その使い方を納税者が選ぶことができる。例えば、子供達の育成や自然を生かした地域作りなどである。

あるいは自治体によって、返礼品ではなく災害支援に役立てたり、動物愛護の立場から「わんこ」や「にゃんこ」の殺処分を防ぐために活用しているところもある。すばらしい限りだ。

さて、私のこれまでのベスト返礼品は、新潟県三条市の爪切りである。これは以前からとても欲しかった世界の逸品「SUWADA」製の爪切りである。最高の切れ味、爪が切りたくて仕方が無くなるほどだ。

今年は青森県むつ市の「下北ワイン」を試してみたいと思っている。このワインは「日本ワインコンクール」で、史上初のピノ・ノワールで造られたワインとして金賞を受賞した世界水準のワインとのことだ。

このようにふるさと納税では、グローバル市場でも認められた「Made in Japan」製品や厳選された最高の特産品を貰えたり、地域の情報を入手することができる。

返礼品を盆暮れのお中元やお歳暮に利用できるサービスも現れてきた。自治体が知恵を絞り、返礼品に「のし」を付けて、送付先にふるさと納税と悟られないよう包装するサービスを考え出したのである。

ふるさと納税を機に、自治体サイドにもようやく競争心が芽生え、本当の住民サービスや行政サービスを考え始めたのはなんとも感慨深い。

がんばれ地方自治体!

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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