【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第43回 100年時代の人生戦略 2017年5月24日配信

織田信長が、家臣 光秀の陰謀によりその生涯を閉じたのが1582年、49歳の時である。

「本能寺の変」では寝込みを襲われその一生を終えてしまったが、戦に向かう際は、必ず「敦盛」を謳いながら能を舞うというのが信長の出陣式であった。テレビのシーンでよく見る“人間五十年 下天の内をくらぶれば~”というやつである。

当時、日本人の平均寿命は、この「敦盛」の出だしにある“人間五十年”のように、50歳ぐらいと言われていた。実際はもっと短く30~40歳という説もある。その後、日本人の寿命は着実に延び、70歳を超える長寿国になったのは、太平洋戦争が終わってからのことらしい。

2017年、日本人の平均寿命は、男性82歳、女性87歳という統計が発表された。戦国時代の平均寿命を50歳と推定すると、それから440年余りでおおよそ30歳以上も延びたことになる。

これからも生活環境や食料事情がよくなり、医療技術も進歩していくので、平均寿命はさらに延び続けて行くことはまず間違いないだろう。

私は団塊世代なのでそろそろ終活を迎える年齢に近づいてきたが、私の幼少のころの65~70歳というと、髪の毛は白髪か薄くなり、全身皺だらけで体形もやせ細り、古希を迎えるころには大体の方が亡くなってしまう、というのが一般的なイメージだった。身近なところでは、あのサザエさん家の波平さんのような感じである。

ところが今ではどうだ! 最近のシルバー、実にピンピンしているではないか。頭の方も、身体の方も、やる気も、まだまだ「若い人には負けられない」という気概に溢れている。

多少、記憶力の低下や行動がスローになってきたことは否めないが、見掛けの髪の毛量や腹の出具合ぐらいを除けば、自分もまだまだ十分いけると内心思っている。政治家じゃないが、まさに、「40~50歳は洟たれ小僧、60~70歳は働き盛り……」という言葉がピッタリ当てはまる。

最近「LIFT SHIFT」(ライフシフト)という本を読んだ。

この本の著者はイギリスのリンダ・グラットンという大学の教授である。昨年10月ごろ日本でベストセラーになった一冊である。

「LIFT SHIFT」では、現代人の一生涯について今まで3つのフェーズがあったと説いている。最初のフェーズは生を受けてから20歳前後で学校を卒業するまで。第2フェーズは、働き始めてから60~65歳ぐらいで退職するまでの40年間余り。そして最後のフェーズは、仕事を辞め、いよいよ退職金でのんびりと余暇やレクリエーションを楽しむフェーズである。

確かに、私もリタイアしたら、「サッー!! これから毎週ゴルフ三昧だ、サックス三昧だ!」「住宅ローンも払い終えたし、夫婦で温泉やら海外旅行でも行こうじゃないか!」「子供にも手が掛からなくなったので、犬を飼ったり、趣味や映画やスポーツなど、これからはやりたい放題だ」云々と、思い描いていた。

ところが、である。

最近、あるホームページに紹介された老後資金の試算を見て、とてもショックを受けた。

一般のサラリーマンが退職してから亡くなるまでを22年間(男性の場合で、60歳で退職して、平均寿命の82歳で死亡する)として老後に掛かるコストを試算した例である。夫婦二人暮らしでは1か月の生活費が30万円で、8000万円必要になるそうである。もちろん、この内3740万円は年金から支給されるという前提ではあるが。

夫婦二人で1か月30万円の生活費は、かなり抑えられているような感じもするが、どうだろうか? また、どちらか一方が亡くなり一人暮らしになると、1か月の生活費は21万で平均9年間生きるとすると、約2300万円の老後資金が必要になるとのことだ。

そうなると、本当に退職金と年金だけで、これからの老後を維持できるかという不安に駆られる。単純な見積もりだが、二人でも一人暮らしでも、それぞれかなり生活費が不足するような気もする。住宅ローンや他の借金返済などが残っていれば、さらに、大きな老後資金が必要となる。

追い打ちをかけるように、年金の支給年齢も増々引き上げられていることもご承知の通りだ。国もない袖は振れないのである。

そんなことから、我々の余生は余暇を楽しむどころか、長い寿命を無事生き延びていくため、退職後もまだまだ働き続けなければならないのが実情である。

「LIFT SHIFT」では、こうした寿命の延びに対する生涯の過ごし方について、1つの解決策を提示している。

将来を見据えて、少なくても退職後も何かしら仕事に就けるようスキルだけは磨 いておくことが肝要だとしている。そのために、これまでの3つのフェーズをさらに5つぐらいに細分化して、生活を変えていく必要があるだろうと。

例えば、社会人を始める過程を少し遅らせ、その間に、将来必要になるかも知れない特別なライセンス、例えばMBA、語学留学、運転免許証などのスキルを身に着けてから就職しても遅くはないと説いている。

このアイデアは一理あるが、しかし学生時代にはそんなことを考え付かないだろうし、またその間の生活コストをどのように工面したらいいのかという問題も残る。一方で、来るべき将来に備え、現役時代に様々なスキルを磨いておき、定年退職後、自分の得意な仕事に直ちに就ける環境を作っておくべきであると説いている。

もう“年なんだからまともに働ける仕事なんかない”と言わないよう準備しておくべきであると。

最近、当社である部門の管理職を募集したところ、1か月の間で何と200名以上の方から応募があった。ほとんどが50歳過ぎの人からである。今はそのくらい多くの方が新しい職を探している。なので、我々はこうした現実を踏まえて、自分の将来戦略を今の内から身に着けておくべきかと思っている。

余談だが、私は今でも休まず毎日会社に出勤している。特に来客や会議などがない限りは朝の出勤時間を30分だけ遅らせてもらっている。そのくらいが特別なだけだ。

社員の中にはジョークか本音かわからないが、「老害なんだから、そろそろお休みを増やしては?」と言う奴までいる。そう言うなら、「お前が辞めるまで働いてやる」と、言い返すことも。

 

しかし、これは自分が創業した会社だから言えることで、サラリーマンだったら、本当に私と同じ歳まで無条件に働けるか? という疑問もある。

ともかく、皆様豊かな第3フェーズを!!

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


会社情報メニュー

設立40周年動画

日本SME格付けは、日本の中堅・中小企業の信用力評価の指標です。日本SME格付けに関する最新情報はS&P グローバル・マーケット・インテリジェンスのWebサイトでご覧になれます。日本SME格付けは、企業の信用力に関するS&P グローバル・マーケット・インテリジェンスの見解ですが、信用力を保証するものではなく、また、関連する取引等を推奨するものでもありません。

▲