【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第45回 地球の重さ 2017年7月19日配信

また暑い夏がやって来た。

ここ数年、日本列島は亜熱帯性の島国のように一年中温暖な気候に変動し始めている。東京はこの100年間で気温が約3度も上昇したとのことだ。21世紀末には東京の気温は、鹿児島県の南にある屋久島並みに上昇してしまうという予測が最近の日経に出ていた。何とも空恐ろしい。

「アメリカ、パリ協定から離脱……」

6月1日、大阪出張からの帰り、新幹線の中で電光掲示板にビッグニュースが飛び込んできた。その瞬間、“トランプ大統領がまた何かやらかしたのでは!!”と思った。

パリ協定は、気候変動に関わる国際的枠組みで、途上国も含め多くの国が参加している協定である。気候変動による悪影響を食い止めるため、人為的な温室効果ガスの排出量を実質ゼロにまで減らすことを目標にしている。

特に今回は、温室効果ガスで二大排出国の米国と中国も批准して、2020年以降の地球温暖化対策を定める矢先だった。

それほど大事なパリ協定から、トランプの一言で米国が一方的に手を引いてしまったのである。温暖化はあくまで科学者らのでっち上げと言い放ち、パリ協定は米国に不利益を及ぼすとばかりに離脱を正式に表明した。

地球のことより一国のビジネスを優先する“アメリカファースト”を貫いたのだ。

しかし、その米国国民の50%以上は離脱に反対している。そんなにお金儲けが好きなら政治などやらず、得意なビジネスをもっと続けていたらよかったのではと、このトリッキーな大統領の適性を疑ってしまう。

温暖化は専門家達による事実の歪曲だと批判するトランプや共和党議員に対して、長年、地球の環境問題に警告を鳴らし続けてきた一人の政治家がいる。アル・ゴアである。

実は私はゴアの大ファンである。チャンスがあれば彼の講演を一度は聞きたいと思っているぐらいだ。

彼はクリントン時代に8年間 副大統領を務めた人物であり、2000年には大統領を目指して立候補したものの対立候補のブッシュに敗れている。残念なことに、当時テレビで見た二人のディベートではゴア優勢だったにも係わらず、大統領の座はブッシュに輝いてしまった。

昨年の大統領選でのヒラリークリントンVSトランプのディベートが、あのときと同じ構図だったことを思い出す。米国は本当に不思議な国だ。

ゴアは大統領にはなれなかったが、その後の活躍は目覚ましい。

政治から一線を引き、今では地球環境問題の世界的なエバンジェリストとして活躍している。ゴアを一躍世界的に著名にしたのは、彼の長年のライフワークとなっている地球温暖化問題についての啓蒙活動をドキュメンタリー化した『不都合な真実』(原題:An Inconvenient Truth)であろう。

この『不都合な真実』は2007年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、その後、ゴア自身も環境問題の啓発に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞している。

私は10年ほど前に、この映像をテレビで見て大きな衝撃を受けた。長年に渡る調査に裏付けられたゴアのプレゼンが、地球温暖化を真摯に考えるきっかけとなった。

また今回の米国のパリ協定離脱を機に再びこのドキュメンタリーを見直してみたが、地球温暖化は専門家の杞憂などではなく、明らかに人為的に作られた環境破壊そのものであると確信した。

数年前、PM2.5の大気汚染が深刻化している中国の天安門広場で、1年中茶色のスモッグで覆われた空が、何日間か、突然、雲一つないスカイブルーに晴れ渡ったことがある。あれは北京市内で世界陸上選手権大会が開催されたときのことだ。

この期間中、中国がメンツをかけ、市内にあるほとんどの工場の操業を停止させ、車両の交通量も半減させ、CO2(二酸化炭素)の排出を完全にシャットアウトしたからである。

皮肉にもこのニュースは、政治の力で青空を取り戻せるなら、スモッグに覆われた茶色の空もまた政治の力で作られたのではないかと非難され、世界中のネットで取り上げられた。まったく同感だ。

『不都合な真実』の中で、ゴアは、こんなことを訴えかけている。

地球の大気圏には、CO2やオゾンなどで覆われた薄い温暖効果ガスの層があり、このガスにより地球は一定の気温に保たれている。そこに太陽光からの熱が地表に届き一部は大気圏内に留まり、一部は地表から反射して大気圏外に放出される。その時、何らかの理由で温室効果ガスが増えていると大気圏外に放出される筈の熱が減り、その分、大気圏内に留まって地球を暖める。このメカニズムが地球の温暖化である。

温室効果ガスはCO2の濃度と大きな相関関係がある。長年、研究者達が大気中のCO2の量に注目してその変化を調べた。CO2が増えれば地球の温暖化が進むことを証明できるからだ。

米国で産業革命が始まった200年ほど前のCO2濃度はまだ280PPM程度だったが、近年では380PPMまでに跳ね上がってしまった。この先、50年後はどこまで昇り続けるのか?

私自身もとても気がかりである。

今、世界中で38度を越す暑い日が何日も報告されている。気温の上昇は同時に海水も温める。その結果、巨大な台風やハリケーンが発生し世界中で猛威を振るうようになってしまった。記憶に新しくは、米国で未曾有の被害をもたらした、あの“カトリーナ”である。1800名以上の尊い人命が奪われ、被害総額81億ドルという桁違いの爪痕を残した。

加速的な気温の上昇は世界各地で大洪水や干ばつも引き起こしている。北極や南極では大量の氷山が溶け、北極では既に40%の氷が海に沈んでしまった。また、ヒマヤラ山脈、アルプス山脈などでは氷河が溶け山肌が露出し、以前とは風景が一変した。溶けた氷は海へ大量に流れ出し海面の水位を浮き上がらせる。

その影響で太平洋の島々では大洪水が発生し住民は住む家すら失いつつある。近い将来、海面上昇による陸地への浸食は世界各地で見られるかも知れない。

我々は生活の豊かさや快適さを求め、これまで石油や石炭などの化石燃料を中心としたエネルギーを大量に消費してきた。そのことが同時に世界的規模で気温の上昇や大気汚染などの環境問題を引き起こし、未来へ禍根を残す結果を作り出してしまった。

もし、17年前にゴアが大統領になっていたら、地球の温暖化は今日とはまったく違う状況になっていたと思う。少なくともブッシュ親子やトランプの政策よりは良い方向に向かっていたと信じている。

我々の政府にも環境省はあるが、積極的に地球温暖化対策に目を配る政治家はあまり多くないような気がするがどうだろうか。私自身あまり耳にしたことがない。

「沸騰したお湯の中にカエルを入れると驚いてお湯から逃げ出すが、ぬるま湯にカエルを入れてもなかなか気付かない。その内、お湯が沸騰し熱くなっても、カエルは気付かないまま死んでしまう」。

まさに、この「ぬるま湯の中のカエル」は我々自身である。地球温暖化や温室効果ガスの削減から目を背けていれば、いつかは“審判の日”を迎えてしまうかも知れないのである。

ぜひ、CO2の削減に協力しよう! 地球はたった1つしかないのだから……。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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