【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第56回 ラストワンマイル 2018年6月20日配信

今回もまたジジィ(時事)ネタを話そう。

私の病気(心筋梗塞)が回復したのと引き換えかのように、今度は奥方が「腰椎すべり症」という、やっかいな病気に見舞われてしまった。

腰周りが痛くて椅子や車のシートに座ることができないらしい。
そのため毎日使っていたマイカーにもほとんど乗らなくなってしまった。

今では、調剤薬局へ薬を貰いに行ったり、スーパーやデパートへの買い物、クリーニングに行ったりするような仕事は、私が一手に引き受けている。

昨年、私が大病した際、彼女には色々世話になったので、今度はこちらがケアする番である。それが“夫婦の絆”というものであろう!

私の通勤は、何年間も続けてくれた奥方による駅までの送迎がなくなり、バスを使うようになった。

私は車が好きで、ちょっと高速を突っ走れば1時間ほどで会社へ行けるのだが、最近は、視力の低下や反射神経の衰えなどが顕著になってきたので、なるべく車での出勤は控えるようにしている。

しかし、二人とも車が使えないと普段の生活が成り立たず、やはり“いざ”というときは、車が必要になるのだ。

昨年、私宛に一通のハガキが運転免許センターより送られてきた。

免許の更新期間満了日に一定の年齢を超える人は、事前に「高齢者講習」を受けなければ免許証がもらえないという知らせである。「高齢者講習?」、何とも嫌な呼び方である。

ともあれ、講習所に行ってみると、受講者は私を含めて5名で、当然だが見るからにシルバーばかり。講習は、1時間ほどの講義とビデオによる座学。続いて視力検査があった。この検査で私の視力は両方とも0.3で、本番ではかなりぎりぎりだと脅かされてしまった。

次に40パターンほどの動物や食べ物などの図柄を見せられた。興味なくただボーッと見ていた私に、突然、教官から「今、どんな図柄があったか答えてください!」と抜き打ちで質問が飛んできた。他の受講者はいくつもすらすらと答えたのに、私は4つしか思い出せず最低のできだった。

聞けば、2回目以降の更新で、この質問にある程度答えられないと認知症の疑いありと判断され、再検査や場合によっては不合格になると脅かされる始末。

エッ~、私は認知症の疑いがあったのか! 本番ではしっかり覚えよう。

最後は、教習所内の道路で実際に車を使っての実地運転。得意な運転なのでこれは難なくパスした。こうして講習会を無事に終え、受講証明書をいただき、後日、運転免許センターでようやく新しい免許証をもらうことができたのである。

さて、認知症といえば、最近、ブレーキとアクセルを踏み間違えてコンビニの中に突っ込んでしまったり、高速道路を逆走して大きな事故を起こしてしまったりした高齢者ドライバーのニュースが記憶に新しい。

その中で、いつも話題に上がるのが運転免許証の返納問題である。

本「コラム」を書き始めた1か月前には、神奈川県内で、90歳の女性ドライバーによる4名の死傷者を出した痛ましい交通事故があったばかりである。ドライバーの家族からは免許の返納を勧められていたが、次の更新時に返すとのことでそのまま運転を続けていたらしい。

私自身もそうだが、免許証は、人間が生活していく上でアイデンティティのような要素もあり、この尊厳を他人から頭ごなしになくすように言われるのは何ともやるせない。

また返納を促す側の家族にとっても、弱者いじめのようになり、あまり強く言えないのが実態だろう。

警察庁がまとめた運転免許の自主返納件数は年々確実に増えて、2017年の自主返納総数は約40数万件。その内の半分以上が75歳以上のドライバーとのことである。

しかし、それと比例して、ここ数年、75歳以上の高齢者ドライバーの起こした死亡事故件数も急速に増え始めている。

なぜ高齢者が免許を返納したがらないのか?

私は今、通勤で毎日バスを利用しているが、幸いにして自宅からバス停まで徒歩1分なのでほとんど待ち時間がない。同じ団地内の一番遠くの家でもバス停まで5分以内であろう。

しかも一旦バスに乗れば、近隣のスーパーや病院、役所近くに降りることも可能だ。いつも行く高島屋へもバス一本で行ける。おそらく恵まれた環境に住んでいるのだろう。

しかし、地域によっては自宅から公共の交通機関を利用するのに、かなりの時間を要する交通弱者も多いのではないだろうか。

いくら幹線道路にバスが多く走っていても、自宅からバス停や最寄りの駅まで遠かったら、あるいは足がなくて辿り着くことが難しかったらどうだろうか?

聞くところによれば、今や地方では1人1台の車社会が当たり前の時代になっている。大人が3名いれば、車も3台使っているのが普通らしい。

その大きな理由は、車がなければ普段の生活が成り立たず、生活に車が深く浸透しているからである。体力が弱い高齢者ドライバーほど足(車)が必要だといえる。

高齢者が免許を返納しにくいのは、やむにやまれず、こうしたラストワンマイル(自宅から最寄りの交通期間までの足)の切実な問題があってのことである。これから、団塊世代が更に高齢化し、前期高齢者が増えていくと、ますますこの交通弱者の問題が深刻化するに違いない。

最近では、都内や自治体により、免許の自主返納に特典を付けて奨励しているところもあるそうだ。例えば、コミュニティバスの乗車券やICカードの提供、ホテルやレストランでの割引、自宅への配送無料、定期預金の金利の優遇、タクシーへの助成金まであるとのこと。すばらしいかぎりだが、やはり効果はまだでていない。

私は、ふるさと納税の寄付金の使い道で、交通機関や車に関わる利便性を増やしたり、住民同士の支え合いによるマイカーシステムなどを支援するためのインセンティブを考えたらどうかと思っている。

自動車に依存しなくとも、生活の質を維持できるようなサービスが生まれれば、この問題は解消できるのだ。

皆さんも一緒に考えませんか?

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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