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【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~
第59回 実を捨てて名を取った老舗ブランドメーカー 2018年9月19日配信
久々にダーバン(D’URBAN)のスーツを作った。
ダーバンは、言わずと知れた日本が世界に誇るレナウンのメンズファッション・ブランドである。若い方はご存知ないかもしれないが、70年代にフランスの俳優アラン・ドロンがTVコマーシャルをして有名になったブランドだ。
団塊世代の方だったら、おそらく聞いたことがあるのではないだろうか?
私は20年近くダーバンを愛用している。今では10着ぐらいは持っているだろうか。このブランドが気に入っている理由は、仕立ての良さとヨーロピアン風のスタイルが、我々シルバー世代でも着こなせる何とも言えないエレガントな雰囲気を感じられるからである。以前、ダーバンは最寄り駅近くの高島屋で購入していた。
しかし、デパートでは生地やデザインの種類が少なく、また最近は私の体型の変化の問題もあり、既製品やセミオーダーでは思うようなスーツが購入できなくなってしまった。
そんなことから、ここ10年ほどはダーバンの専門店であるファミリー会に入会し、価格が高くてもオーダーメイドで作るようにしている。
私は決して全身をブランドで固める“ブランド大好きおじさん”ではない。しかし、今回このコラムを書くにあたり自分の身に着けているものを見渡すと、結構ブランド物が多いことに気がついた。
例えば時計はカルティエ(Cartier)。もう20年以上も毎日腕に着けている。念のため一度だけオーバーホールに出したことがあるが、これまで故障は一度もない。
昨年の7月、心筋梗塞で病院に担ぎ込まれた私だが、それ以外一度も大病したことがない自分と似ているような感じがして、増々この時計に愛着を持つようになった。
普段着はイタリアのアラミス(ARAMIS)。色の綺麗さ、着心地、それとちょっぴり遊び心のあるデザインが気に入っている。
ビジネスバッグは6~7年間ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)のエピを使っていたが、昨年とうとうファスナーの取り付け部分が擦り切れてしまい、やむなくサムソナイトの超軽量バッグに代えた。修理しようとも考えたが、新しいバッグがひとつ買えそうな見積り金額だったので結局諦めた。なんでもそうだが長年使い続けたものは愛着が湧いてなかなか捨てがたい。
会社で着るワイシャツは、生地の品質と仕立てが素晴らしい鎌倉シャツに決めている。
ちなみにアンダーウェアは肌感覚が気持ち良いグンゼである。
ユニクロやB.V.D.なども試してみたが、着心地はやはり日本製が最高だ。
ダーバン、カルティエ、アラミスなどすべて一流ブランドであり、毎年それほど大きくモデルチェンジしない。価格はそこそこ高いが、品質やスタイル、機能性も良く飽きが来ない。どうも私のブランド好みは、メーカー云々というより飽きがこなくて長年使える品質に魅力を感じているのだろう。
さて、そんなことを思っていた矢先、あの世界的に有名なイギリスの老舗ファッション・ブランドであるバーバリー(BURBERRY)のビッグニュースが飛び込んできた。
1年間に売れ残った衣料品やアクセサリーなどを大量に焼却処分していたことが判明し、本国をはじめ世界中のメディアから激しいバッシングの声が上がっているというのである。
余剰在庫をバーゲンなどで安売りしたり、グレーな市場に流出させるより焼却してしまった方が、結果的にブランドイメージに傷が付かず知的財産も保護できるとバーバリーでは説明している。
どうやらこうした処分は彼らだけに限ったことだけではないらしく、世界中のアパレルやファッション業界でも同じようなことをしているとのこと。
わからない訳でもないが、しかしユーザーからすれば随分もったいない話である。焼却処分による環境問題などもあるだろうが、実際に商品を生産している人々への配慮やリスペクトというものはないのだろうか?
バーバリーといえば、昔から日本人にとっても馴染みの深いブランドである。これぞ英国と思えるチェック柄(ノバチェックというらしい)のデザインは長年多くの人々を魅了してきた。今では、バッグ、ハンケチ、財布、傘などチェック柄の商品を見れば一目でバーバリーとわかるほどである。
ビジネスマンであれば、チェック柄の裏地が付いたベージュや黒のコートは老若男女問わず多くのファンがいる。
バーバリーが日本市場にこれだけ定着したのは、45年間の長期に渡り、本国のバーバリーからライセンスを受け日本市場向けに商品を提供してきた三陽商会の功績が大きい。
バーバリー・ロンドンだけでなく、バーバリー・ブルーレーベル、ブラックレーベルとラインを増やし、若い人にもたいへん人気があった。私の娘が中学生ぐらいのときだったろうか、安室奈美恵さんが着ていたブルーレーベルのスカートをプレゼントしたこともある。
しかし3~4年前、本国からの一方的なライセンス契約の打ち切りで、三陽商会は突然主力ブランドと売上の半分を失ってしまった。これは三陽商会と同じくライセンスを受けていた寝具の西川産業、バッグの大塚製鞄、傘のオーロラなども同様である。
こうしたライセンス・ビジネスでは、メーカーとの関係において、常に契約が打ち切られるというリスクをはらんでいる。
メーカーが「自力で、日本市場で売れる」と決めたら、三陽商会のような功労者がいようが、強引にそのライセンスを解除して自前に切り替えて参入していくというのが、よく見られる海外メーカーの戦略である。
このニュースを聞いたとき、「あーやっぱり来るときが来たか!」と思った。
しかし、バーバリー社の裏切り行為のようにも見えるこの一件は、実は三陽商会などが作り上げた日本市場を奪い取るがための策略ではなかったのである。むしろそれより、既存ライセンスから受け取れる1000億円ともいえる巨大マーケットを捨ててまで、ブランド価値を守るために経営判断したというのである。
いったいこれはどういうことなのか?
調べてみると、ライセンス・ビジネスから生まれた日本企画のバーバリー商品は、世界的に見てもそれほど高級ではないらしい。若者でも比較的手が届く価格帯の商品が多い。
しかし、近年中国をはじめ東南アジアなどで富裕層が誕生しグローバル市場が拡大してくると、世界中でショッピングしているインバウンドの観光客が「何故、日本では、バーバリーの値段がこんなに安いのか?」と疑問に思うようになった。
一般にバーバリーのコートは海外では20万~30万円以上もする超高級品なのに、日本だと1/2、1/3の値段で買えてしまう。そうなれば「バーバリー商品は日本で買った方がお得!」となってしまい、日本に許諾していたブランドはその価値を下げ、自分で自分の首を絞めるようになってしまったのである。
加えて、高級イメージの世界統一戦略が日本とズレてしまうという危機感も出てしまった。そうした理由からバーバリーはすでに拡大していた日本市場を縮小してでも、ライセンス供給をストップして、ブランドを守るための英断を下したと言うのだ
まさに、それは常識とは真逆の「実(売上)を捨てて名(ブランド)を取った」のである。
こう考えると、品質が良く価格も手頃な日本企画のバーバリー商品がなくなってしまったのはとても残念だが、一方で、日本の巨大市場を捨ててまで企業価値を守り抜いたバーバリーの姿勢には「あっぱれ!」をあげたい。
きっと100年後もノバチェックの商品を販売していることだろう……。
株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介
設立40周年動画
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