【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第61回 私の音楽遍歴 2018年11月21日配信

高校生のころはよくレコードを聴いた。
最近ではほとんど見かけなくなった45回転のシングル盤(通称ドーナツ盤)や33回転のLP(Long play)盤の音楽レコードのことである。

団塊世代の方なら多分ご存じであろう。
自宅のどこかには、昔買い集めたレコードが今でも眠っている。
もう二度と手に取ることはないと思うのだがなかなか断捨離できない。

一番聴いたのは、ビートルズとベンチャーズ。
ジョンレノンとポールマッカートニーのヴォ―カルの迫力に圧倒されたことを今でも憶えている。日本中のギターファンの間で一世風靡したのはベンチャーズだ。生まれて初めて聴いた彼らのエレキサウンドにも心が大きく揺さぶられた。

当時はビートルズやベンチャーズに影響を受けた大勢の若者(特に男子)が、コピーバンドを結成して新しい音楽の楽しみ方を創り上げた時代でもあった。

自分もそうした一人である。

楽譜などなくレコードから聴こえてくる彼らの演奏を「耳コピー」しては音源を辿る毎日だった。こうして私は高校を卒業する近くまで音楽活動にのめり込んでいた。

あれから50年、今でも音楽の趣味は続いている。

ビートルズやベンチャーズは流石に卒業し、今は、特に洋楽を中心としたポップス、ロック、ブルース、スタンダード、フュージョン、ジャズなど多種雑多なジャンルを聴いている。たまに懐かしい演歌やフォークなどを聴くこともある。

メディアも、レコード盤はなくなりCDやDVDなどに変わった。
この間数えたら、CDとDVDだけで500枚以上あった。
音楽の楽しみ方も以前と随分変わってきたと思う。

30~40歳のころは、たたみ一畳ほどの大型のパイオニア製ステレオ・コンポで聴いていた。このステレオには60Wアンプに2台の大音量スピーカーとCDプレーヤー、そしてターンテーブル方式のレコード・プレーヤーが接続されていた。ナガオカ製のダイヤモンド針で再生したアナログのサウンドはすばらしい音を奏でてくれた。

一番感動したのは演歌の藤圭子(宇多田ヒカルの母親)が歌った「圭子の夢は夜ひらく」である。テレビ番組で作家の五木寛之氏が話していたことを真似し、真夜中に部屋の電気を真っ暗にしてヘッドフォンで聴いたときは、あまりにも切なくて涙がボロボロこぼれた。

最近は部屋の中で音楽を聴くというスタイルから、iPhoneなどのスマート・デバイスを使い屋外で聴くシーンの方が圧倒的に多くなった。

皆さんはどうでしょうか?

先日、通勤電車の中で数えてみたら、私が座っていた7名掛けのシートでは3人、前のシートでも3人、そして左斜め前のシートでも4人の乗客がイヤフォンとスマホで何かを聴いていた。

音楽か英会話かYouTubeかゲームかわからないが、全員“ながら”で聴いている。私自身も、歩きながら音楽を聴いたり、庭の手入れをしながら聴いたり、電車やマイカーの中で聴いたりする、移動しながらのリスニングが当たり前になった。

音楽ソースの入手方法も随分と変わった。ついこの間までは、店頭やアマゾンでCDを購入していたが、最近ではiTunesや他の音楽配信サイトからPCにダウンロードして購入している。iPhoneに同期したり、車の中ではBluetoothを経由してカーオーディオで再生するなど、音楽を聴くシーンも以前とはまったく違うようになった。

話は変わるが、今、世界の音楽業界が大きく様変わりしている。

音楽ジャーナリストの柴那典氏によると、2017年のグローバルな音楽市場は前の年に比べて8.1%増加し、売上が約173億ドルと大幅な成長を示した(国際レコード産業連盟のデータから)とのこと。

2015年の3.2%増、2016年の5.9%増に次いで3年連続で市場が拡大し、過去10年で最高額を記録したそうだ。この数字は、1999年以降落ち込みを続けてきた世界の音楽市場が明らかに回復傾向へ向かっていることを示している。

特に米国は前年比16.5%増の9064億円で世界第1位を記録。次いでイギリスも前年比10.6%増で1276億円、ドイツは若干落ちたがフランスは好調だ。

一方、日本の音楽市場は米国に次いで2番目の大きな規模だが、前年比の売上が-3%減少して2893億円となり、他国に比べ大きな落ち込みとなった。

なぜ、日本だけがそうした結果になったか、どうもその理由は、レコード産業のビジネスモデルの変化に、日本の音楽業界が乗り遅れてしまったということらしい。

前出の柴那典氏によると、今やグローバルな音楽業界はストリーミング分野の売上高が急伸し、前年比41%増の66億ドルで、世界全体の市場の38%を占めるまで成長したとのことである。この大躍進が、これまでの主流だったCD売上のマイナス分をカバーし全体を押し上げた。

一方、日本でのストリーミング市場の規模は263億円、シェアは全体の9%ほどで、従来のCD、DVD、ブルーレイなどのメディア売上が未だに全体の80%を占めているとのこと。

ここ何年間、グローバルでの音楽業界ではストリーミング配信の普及と共に、『所有からアクセスへ』という時代の変化が起こっているが、日本では残念ながら音楽メディアを所有する従来のCDが未だに主役を占めている。

以前は「ダウンロードは違法コピーにつながり音楽からお金が取れない」「これからの音楽はライブで稼ぐ時代」とか聞かれたが、しかし結果的にグローバルでの成長がストリーミング・ビジネスで先行する他国より遅れたことは否めない。

確かに私もそうだし、職場の音楽好きな社員に聞いても、やはり未だにCDやダウンロードで購入するケースが目立つ。理由は単純で、いつでも手元に仮想CD(ファイル)として残せば通信を流さず好きな曲なら何度でも再生できる。もう一つの大きな問題は、日本は通信のパケット料が異常に高いからだ。本当に高い!

ストリーミング配信を利用したいが通信コストがネックとなり簡単に移行できないユーザーが多い。毎月定額料金にて何曲もストリーミングで聴くようなヘビーユーザーは、日本では若者を中心にまだほんの一握りしかおらず、新しい利用形態に変化するまで至っていないのが実情らしい。

これは数年前まで、我々IT業界のソフトウェア市場で起こった動きとよく似ている。今では、BtoBでもBtoCでもソフトウェアをクラウドで使う『所有から利用へ』が主流になりつつある。

しかし日本の音楽業界は、未だにビジネスモデルの転換が追いつかず世界市場の成長の足を引っ張っているようである。

ソフトウェアビジネスと同じようにいつかは辿り着くとは思うのだが。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


会社情報メニュー

設立40周年動画

日本SME格付けは、日本の中堅・中小企業の信用力評価の指標です。日本SME格付けに関する最新情報はS&P グローバル・マーケット・インテリジェンスのWebサイトでご覧になれます。日本SME格付けは、企業の信用力に関するS&P グローバル・マーケット・インテリジェンスの見解ですが、信用力を保証するものではなく、また、関連する取引等を推奨するものでもありません。

▲