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【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~
第62回 去勢されたボンド 2018年12月19日配信
つい最近、ツイッター上である写真が紹介され炎上した。
タイトルは、‘Oh 007.. not you as well?!!! #papoose #emasculated Bond’、訳すと「あーぁ007よ、お前さんもか? #抱っこひも #去勢されたボンド」だ。
ツイートされたのは英国の俳優ダニエル・クレイグである。あのスパイ映画007シリーズの「007/カジノ・ロワイヤル」や「007/慰めの報酬」で、6代目ジェームズ・ボンド役をつとめた。映画の中では、かつてのピアース・ブロスナンやロジャー・ムーアのダンディ調ジェームズ・ボンドとやや役柄が異なり、どちらかといえばクールでシリアスな007を演じていた。
その恰好いいダニエル・クレイグが、メガネに無精ひげ、キャップ帽にスポーツウェアという「普通のおじさん」姿で、大切そうに愛娘を抱っこひもで抱えているところをパパラッチに“パチリ!”とやられてしまった。
ツイッターに投稿したのは、イギリスで有名なピアース・モーガンという毒舌司会者である。タイトルには「去勢された骨抜きボンド」というハッシュタグを付け茶化している。
そして彼の思惑通り、「男なのに抱っこひもなんかしてみっともない」「男子たるもの育児などするな!」「007なら赤ちゃんぐらい片手で抱け!」など、様々なツイートが世界中で飛び交い大炎上したと言う訳である。
正直、私も一瞬そんな感じを受けたが、しかしちょっと考えれば、映画の中のクールなダニエル・クレイグが、プライベートな写真の中で多少ギャップを持たれただけである。
父親が大切そうに愛娘を抱いている姿は世界中どこでも見られるシーンであり、私にはとても親近感が湧き、微笑ましく、そして人間味を感じられた。
この投稿は英国人一流のブラックユーモアであり、別段SNSで大炎上するような話題でもない。しかし最近は、こうした自分と違う意見や感覚がでるとすぐさまクレームをつける子供じみた風潮がある。
さて話は遡るが、私自身も30代前半に、2歳になった長男を連れ毎朝保育園へ通ったことがある。
共稼ぎだったので、出勤時間の早い奥方が食事の支度をしてから一足先に自宅を出て、遅い時間の私が保育園まで徒歩で子供を預けに行くという毎日だった。
当時はそうした夫婦での共同作業は当たり前で、今日のようなやれ育メンとかワークライフバランスといった気の利いた定義などなく、ごく普通のことだった。
そのころ、毎日便利に使っていたのが、昔懐かしい、あの「おんぶひも」である。ダニエル・クレイグが愛用している抱っこひものようなスマートさはないが、それでも背中にひもを通し子供を安心して連れて行くことはできた。
スーツの上から子供を背負い、片手にはビジネスバッグを持っての毎日だった。雨の日は、傘とバッグで両手が塞がってしまい、「おんぶひも」はとても重宝した。夏の間はワイシャツの上から掛けたので、汗だくになったものだ。
また、保育園に向かう途中、なにやら背中の辺りからあの匂いがして、急遽おしめを取り替えにUターンしたこともある。
当時は、今のようなベビーカーやマイカーなど持てる余裕がなかったので、「おんぶひも」で子供を抱えて外出するのはごく普通のことだった。
振り返ってみても、あんなに便利でそして安全に赤ちゃんを運べるアイテムは他には見当たらない。
なので、このたびのツイートのように見た目だけで人を茶化すのはちょっといかがなものか。非難している人達は、抱っこひもで子供を抱いた経験などないか、あるいは独身なのでは、と思ってしまう。
ベビーカーやチャイルドシートが当たり前になった今日では、「抱っこひも」が活用されるシーンは少なくなったかも知れない。しかし見た目がカッコ悪いからとか、男性だからとか、自分の主義主張や思想に反するというだけでネトウヨ的に何事も攻撃に出てしまうのは、いかがなものであろうか。
さて、その長男も今では30代となり2歳の子供の父親になった。
男女のツインズ(双子)というオマケ付きである。
最近このツインズが歩けるようになったのを機に、孫たちを保育園に預けお嫁さんが働き始めようとしたが、ここで大きな問題に突き当たった。
彼らが住んでいる地域はこの10数年で急速に開発が進んだ新興住宅地である。最寄り駅の前には高層マンションや戸建て住宅が建ち並び、その周りには大型のショッピングセンターをはじめ、ホテル、病院、大学、レストランなど次々と建てられている。
土日・祝日ともなるとショッピングセンターを中心に、子供連れやベビーカーを押す大勢の若い夫婦達でごった返す。今、ここには我が国で深刻になっている少子化の問題はまったく見受けられない。
子供らのはしゃぐ姿を見ていると、日本の未来は盤石のように思えてしまう。
しかし急速な人口増加で、この地域では保育園や幼稚園の数が追い付かず、多くの親達が待機児童の問題に直面している。子供が一人でも難しいのにツインズともなると、なおさら入所枠から外されてしまう。そのため、長男は地元より1~2駅離れた保育園を探し出し預けることにした。入所こそ叶ったものの、もちろん費用は2倍である。
知らなかったが、孫達をこうした認可保育園に入れるために保護者が行う活動(保活)は、家庭状況をポイント化した「点数」によって行われ、厳しい条件の下で優先順位が決まるとのこと。そのため、中には入所しやすくするため保育園の近くへ引っ越しするなど涙ぐましい努力をしている保護者もいる。
また、祖父母などが近くに住んでいたり、職場が近くにあるとか、パートで働くとか、就労実績が少ないなどでも入園を制限されてしまう場合がある。
さらに発育が少しでも遅れている児童の場合は、受け入れる側の態勢が整っていないとか、他の園児に影響が出てしまうなどを理由に、「慣らし保育」と称して2時間程度は預かってくれるものの、フルタイムで預かることはできないなど断られてしまう可能性もある。そうなれば親達も働くことができなくなり、最終的に退園という選択を迫られてしまうのである。
そうしたことを知ってか知らずか、最近我が国の政治家から様々な問題発言が飛び出している。「子育ては女性の仕事」「女性は複数の子どもを産むべき」「妊娠できない女性には生産性がない」「子供のいないカップルは身勝手」などなど……。
たぶん良かれと思い、不用意に言ってしまったことだと信じるが、子供を「産め」「産め」と奨励している割には、保育園不足のために待機児童が溢れていたり、経済的な不安やワークライフバランスの問題で産むことを思いとどまっている親がたくさんいることのご理解が足りないような気もする。もう少し真摯に受け止めてもらいたいものである。
来年には、いよいよ認可施設や幼稚園の無償化に踏み切るらしいが、これが消費税10%値上げの非難回避とバーターにならないことを望む。
前出のダニエル・クレイグへのツイートのように、色々な意見を発信するのはご自由だが、もう少し実態を見てからにしてはいかがでしょうか?
株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介
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