【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第67回 令和はサブスク時代 2019年5月22日配信

テレビやネットなどで「サブスク」という言葉が盛んに使われ始めている。

何のことかと思ったら、数年前から、我々IT業界でも頻繁に用いられている「サブスクリプション(Subscription)」の省略形だということがわかった。最近は、メディアや若者がこうした難しい単語を短くして使うので余計ややこしい。

「サブスク」は、商品やサービスなどを継続的に受けることから定期購読とか予約購入という意味がある。以前からよくある、新聞や牛乳の定期購入、交通の定期券などもその一例であり、決して新しいビジネスモデルではない。私も通勤のため自宅から最寄り駅まで1年間乗れるバスのフリーパスを持っている。この定期券があれば1日何回乗ろうが、また通勤以外でどこへ行こうが料金はかからない(助かる~……)。

この「サブスク」が、今、形を変えて、様々な業界や新たなビジネスに応用され始めている。

有名どころでは1か月3千円でコーヒーの飲み放題ができるCoffee mafia(コーヒー・マフィア)。1か月間毎日通えば1回当たり100円で本格的なコーヒーが飲める。1か月6800円でブランドバッグが借りられるLaxus(ラクサス)や、1か月3720円で何回でもネイルサービスが受けられるFree Nail(フリーネイル)もある。

昔からある英会話教室のAEONやGabaなども同じ定額制のサービスである。

矢野経済研究所の調査によると、2018年、「サブスク」での日本の市場規模は5627億円で、5年後まで1.5倍伸び、2023年には8623億円になると見込まれているとのこと。

「サブスク」が伸長してきた背景には、顧客側に『所有よりも利用』という考えが生まれたことである。ビジネスの多様化や時代の急速な変化により、ユーザーはお得にサービスが利用できたり商品を安く購入できる。反対に提供側は確実に毎月の売上が確保できたり顧客の囲い込みができるなどのメリットがある。

兵庫県立大学の川上昌直教授によると、「サブスク」が注目されてきた背景には、(1)リーマンショック以降、多くの人が消費を抑え無駄をなくすようになった。(2)スマホの普及で誰でもどこでもインターネットでアクセスや買い物ができる環境ができた。(3)2000年以降に成人になった20~39歳までのミレニアル世代が消費の中心となり、ネットでの買い物に抵抗感がなくなったなどがあるとのこと。

「サブスク」先進国のアメリカでは、すでに様々な新しいサービスが始まっている。

映画の定額制鑑賞サービスであるMoviePass(ムービーパス)では1か月2200円支払えば、映画を毎月何本でも自由に観られる。毎日1作品鑑賞すると考えれば1作品が73円になる勘定だ。アメリカでの映画館の料金は、1本平均が約1000円なので、映画ファンにとっては破格の値段で映画三昧できるという訳だ。

MoviePassはアメリカの映画館の9割以上が採用している人気のサービスだが業績は赤字である。なぜなら映画館側が赤字にならないようMoviePassが通常の映画料金を全額映画館に負担しているからである。

ではなぜこの赤字サービスを継続しているのかといえば、映画を観る前のチケット予約や鑑賞後のユーザーの動向などをすべてビッグデータに収集し分析して、その次のビジネスに活かす戦略が裏側にあるからである。

ギブソンと人気を二分しているアメリカの老舗エレキギター・メーカーのフェンダーも、Fender Play(フェンダープレイ)でギターのトレーニング動画サービスを月額1100円で提供している。ユーザーのレベルに合わせてテクニックを教えたり、ユーザーは好きな楽曲を学ぶことができる。

フェンダーがこのサービスを始めた背景には、ギター購入者の9割が1年以内でギターに挫折してしまう「1年の壁」があるためである。フェンダーはユーザーが壁を乗り越えるためのお手伝いをしている。

しかし、本当の狙いはこのサービスから得られる様々な情報をビッグデータに集積して、次のビジネスへつなげる戦略があるからだ。ギター購入後、ユーザーがどんな理由でギターを止めてしまったのか、どんなことが難しかったのか、どんなことを求めているのかなど、様々な情報を蓄積している。

私の趣味はサックスだが、韓国にもフェンダーと同じようなサックスのトレーニングのサービスがある。YouTubeを通してサックスの“いろは”から高度なサックステクニックまで教えてくれる。入会すると、トレーニングの他に楽譜のPDFファイルやBackingTrackと呼ばれるカラオケ音源などの教材もダウンロードできる。こうしたサービスが一般化している韓国のアマチュア・プレーヤーは驚くほどレベルが高い。

フランスでの「サブスク」は、若者の列車離れを防ぐために実施しているTGV MAXと呼ばれる日本の新幹線に似た高速鉄道の定額制乗り放題サービスである。月額9800円でフランス国内が乗り放題になる。通常はパリ~マルセイユ間の片道が12000円なので、1回乗っただけで元が取れてしまうかなりお得感のあるサービスである。

ただし条件が付いていて、このサービスが利用できるのは19~27歳に限定されている。なぜかといえば、ヨーロッパはどこの国でも地続きになっているためどこへ行くにも自動車が使えてしまう。そのため日本と同様に鉄道を利用する若者が激減しているとのこと。TGVはそうしたお客を取り返すため、若者にターゲットを当てて思い切った乗り放題サービスを打ち出したのである。

お隣の国、韓国では毎日定食が定額制で食べ放題という面白い「サブスク」がある。これはGOLDEN BALL 9(ゴールデン ボール9)という食堂が打ち出した、予備校に集まる学生向けに始めたサービスである。通常は1食530円の定食が、この「サブスク」を利用すると、1日3食なら月額21000円(1食あたり259円)、1日2食なら18200円(1食あたり337円)、1日1食なら9600円(1食あたり355円)で食べられる。

安いか高いかはメニュー次第だろう。この背景には、高学歴社会の韓国ならではの大学受験のため予備校近くに集まる学生客の激しい取り合いがある。しかし、大きなお世話だがこのサービス、毎日が食べ放題というのは少々健康面でリスクはないのだろうか。

「物の所有から利用へと」……、
商品を作って売る従来のビジネスモデルは徐々に崩れ、数年前から「サブスク」型のモデルが新たな顧客との関係を築き始めている。まさに大きなビジネス変革である。我々のソフト業界でもかなり以前からこの「サブスク」を取り込み、今やビジネスモデルの中核にまで成長している。

元号が令和に代わり、我々のビジネスもこれまで以上に変革が問われる時代になった。そうした状況の中で、今回例を挙げた「サブスク」の中には様々なヒントが隠されているような気がする。

皆さん、良いビジネスモデルは、どんどん取り込んでいこうではありませんか……。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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