【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第74回 居場所が見つからないフィットネスクラブ 2019年12月18日配信

「フィットネスクラブにでも通うか……」

こう思い立ったのは半年前のことである。
2年前に心筋梗塞をやって2か月近く入院し、その後も長期に渡ってリハビリを受けたが、未だに元の体力まで戻ってない。今後のことを考えると、足腰の衰えだけでも回復させたい。

ならば本格的に運動でも!……、とそんな決意をしてフィットネスクラブへ通い始めた。

本当はRIZAPのようなマン・ツー・マン方式の方が、テレビCMで観るようなカッコいい細身のボディにもなれるのではないかと多少「よこしま」な考えも浮かんだが、ここは経済面と健康面を優先させ、まずは基礎体力作りに的を絞ることにした。

実のところ、フィットネスクラブはこれまで2度挑戦したが、いずれも途中でリタイアしてしまった。今回続けば、三度目の正直のはずだ。

20年前初めて通ったところは自宅近くにある全国的にもよく知られているところだった。奥方が先にメンバーだったので濡れ落ち葉のように「ワシも族」でついていったが、結局のところ自分だけ1年程度で退会してしまう結果に。

彼女の方はかなり長い間通い続け、友達もできてエンジョイしていた。

このフィットネスクラブではトレーナーが積極的にリードし、スタジオレッスンやトレーニングマシンなどの使い方も細かくアドバイスしてくれた。

私は週に2日ほど通った。始めはテレビを観ながらルームランナーなどの軽めのマシンで30分ほど黙々と汗を流す。定期的に回ってくるインストラクターのおねえさんを捕まえて、心拍数を測ってもらうお楽しみもあった。

マシンが終わると次は30名ほどのグループに分かれ、スタジオでストレッチを40~50分続ける。そして最後は自由にアブドミナルクランチなどで筋肉を鍛えて1回のコースを終える。これはこれで良かった。

しかし、数か月が経つとトレーニング方法がマンネリ化し、飽きがきてしまった。どうも自分には1つのことを黙々とこなすことが苦手なことが分かった。単純に言えばただ飽きっぽいだけかも知れないが。

余談だが、以前、病院であれだけ苦しかったリハビリに耐えられたのは、理学療法士と看護師に大声で励ましてもらいながら訓練したからである。

フィットネスクラブではスイミングやヨガなどもやっているし、中には二人で壁にボールを打ち合うスカッシュなど、楽しそうなオプションもたくさんあったが、私にはハードルが高すぎる。

積極的に参加すればもっと楽しくなると頭では理解はしているのだが、その一歩がなかなか踏み出せない。結局フィットネスクラブの中では奥方以外誰とも会話することなく、毎回同じマシンをひたすら繰り返すだけのトレーニングに終始した。そして、とうとう1年余りで挫折を味わうことになってしまったのである。

2番目に通ったフィットネスクラブは、会社から地下鉄で3駅行ったところにある小さな施設だった。ここは当社が加入している健保と提携していて、1回100円(当時)で気軽に利用できた。

施設内は、トレーニングマシンが数台と小さなプール、それにヨガなどができる小さなスタジオがあった。会社の帰りに寄っていたがいつもガラガラ状態。時々ガラス越しに当社の女性社員達がエアロビで汗を流している姿を目にすることも。

彼女達も私に気が付き、気まずい雰囲気になったこともあった。何も見ないふりをしながらマシンに集中したが、やはりちょっとやりにくい。そんなことが度重なり、結局そのフィットネスクラブでは、また誰とも話さずトレーニングマシンで軽く汗をかくだけに終始した。

お楽しみは汗をかいた後のシャワーのみである。これを半年ぐらい続けただろうか、いつの間にかトレーニングマシンには手も触れず、毎回シャワーを浴びて帰るだけになってしまった。ここでも私は居場所を作ることができなかった。

そして今通っている3番目のフィットネスクラブ。果たしてここは続けられるだろうか?

場所は、通勤途中の駅ビルにある。全国的にも知名度があり、交通の便も良いので結構流行っている。体育大学を出たばかりの(ような?)元気のいいインストラクターが大勢いるが、プログラムの説明やマシンの使い方などキメ細かいアドバイスはほとんどしない。「どうぞご自由にお使いください」と言わんばかりに場所を提供するだけのフィットネスクラブになっている。

休日の早朝、お気に入りのピラティスに参加するため急ぎ駆けつけると、オープン前だというのに、エントランスには大勢のご婦人達が陣取って30メートルほどの列を作っている。そのパワーに圧倒されながら早々に着替えを済ませスタジオ入りすると、案の定、中はすでに大勢のメンバー達で大混雑。

どこかのテレビタレントが言っていたように、「ここは銭湯か?」と叫びたくなる。

そしてピラティスが始まる直前はスタジオで使う敷きマットの確保とスペースの陣取りでパニック状態に。定員(50名)の100%近くがご婦人で占められ、男性陣は私ともう1~2名のみ。「やりにくいな~」と、片隅で一人ひっそりとピラティス開始を待つ。

筋トレマシンの周りには、私と同年代ぐらいの元気なオジサン達が派手なユニフォームで筋肉隆々の黒い肌を自慢げにご披露。ご婦人達もマシンにドッシリと腰掛け、お友達同士でペチャクチャ喋りながら、ゆっくりエクササイズをスタートする。

「俺は一体ここに何をしに来ているのか?」と自問自答しながら、最後まで自分のペースを掴めないまま1日のメニューを終える。

近頃はそんなことが度々重なり、ここに通うのも少々気後れ気味。もう結果は見えているのかもしれない。

そんなことだったらと、最近アマゾンで「NHKラジオ体操」のDVDを購入し、ラジオ体操を始めた。

朝晩1回ずつ、もちろん奥方も一緒だ。朝は朝食の前にDVDがセットされていて「ラジオ体操第一」の声から始まる例の体操をやっている。軽快ないつもの音楽と「1・2・3・4」という掛け声に合わせて体を大きく動かす。

実に爽快である。うっすら汗をかいたりして。二人でDVDに向かって体操をしている姿は他人にはどう映るのだろう? そんなことは気にしない!

あまりに楽しいので会社の昼休みにも始めた。なぜラジオ体操がこんなに楽しいのか考えてみたら、子供のころ毎日やったラジオ体操、そして昔からのあの掛け声、全身を使うストレッチのような体操、5分だけの超短時間、そして誰とも比べない。

ここまでコラムを書いて気づいた。このラジオ体操はまったく私に合っている。これならずっと続けられる自信がある。

3番目のフィットネスクラブは……わからない。

株式会社インターコム
代表取締役会長兼社長 CEO 高橋 啓介


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