【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第76回 いけ好かない奴 2020年2月19日配信

皆さん、住基カードって覚えていますか?

正式名称は住民基本台帳カード。
個人の氏名、住所、生年月日、性別、住民票などのデータが記録されたICカードで、行政手続きをインターネットから申請できるようにしたカードである。

2003年に各市区町村から交付され、2014年3月までの累計交付枚数は833万枚。実は、私もこのカードを取得した一人である。

しかし、2016年からマイナンバー制度が本格運用されたことに伴い、今ではこのカードの発行およびサービスは終了している。

総費用2000億円をかけ普及率はたったの5.5%(2015年総務省が発表)、この住基カードとはいったい何だったのだろうか?

このカードは、特に個人の身分証明として使うことに主眼が置かれていた。銀行口座やクレジットカードの新規開設、あるいは携帯電話などを申し込みする際、本人確認のため使われた。一部の地域では、コンビニのキオスク端末から住民票の写しや印鑑登録証明書などの交付サービスを受けることができた。

もう一つの用途は転居の際に役立った。事前に転出届を今住んでいる市区町村へ出しておけば、転居先の市区町村ではこのカードを窓口に提出するだけで手続きが簡略化できるというものである。

しかし身分証明は運転免許証やパスポートで十分だし、住居の引っ越しも10年に1度くらいのものであろう。

私がこのカードを取得した最大の理由は「確定申告」である。e-Taxを使い電子申告を行う際、住基カードによりオンラインで身分証明を行うことだった。これは確かに便利だと思った。わざわざ税務署に出向かなくても自宅や会社から確定申告できる。必要な機材は、パソコン、ネットワーク、それに住基カードを読み込むためのカードリーダーである。

いざ操作してみると、確定申告の計算は国税局のWebアプリで簡単にできた。あとは、カードリーダーから住基カードを読み込んで私の個人認証をすることだけだった。

しかし実際は、新規購入したカードリーダーが読み取りエラーを起こして受け付けてくれないのである。何度トライしても駄目だったので、諦めて市役所に出向き調べてもらうとなんとカードの内容が壊れていたのである。

「初めて使ったというのに??……」。

カードはすぐに更新してもらったが、市役所から税務署は目と鼻の先だ。自宅に戻って再び最初からやり直すのも面倒なので、そのときは税務署で直接申請することにした。e-Taxを使い税務計算は簡単に終わったが、署内のパソコンにはカードリーダーが付いていない(!?)ので「紙」で提出して欲しいとのことである。

次から次へと問題が起こった、やれやれである。

結局税務署のプリンターで印刷し、所定の封筒に入れて、窓口で申請を無事終えることができた。

このあきれた経験で、翌年から確定申告は毎年税務署の窓口で行っている。なので、確定申告に住基カードは1度も使っていない。

また、身分証明が必要なときはいつも運転免許証で済ませてきた。結果から言えば、毎日の生活の中で、住基カードの必要性はまったくなかったのである。勝手な推測だが、私以外にもこのカードを活用した方はほとんどいなかったのではと想像している。

あえて言わせてもらえば、住基カードとはカスタマー・ファーストを無視した、まさに「行政ファースト」のサービスではなかっただろうかと思っている。

さて、2015年からマイナンバー制度が始まったのは周知の通りである。

マイナンバーは日本国内に住民票があるすべての人に付けられた背番号のようなものである。「消えた年金問題」に端を発して、社会保険を一括管理する方法として検討されたのが事の始まりである。

2015年1月から、順次、「紙」の通知カード(通称:マイナンバーカード)が自宅へ郵送されてきたのを覚えているだろうか? その後、この通知カードをどのように保管するか、ICカードを作った方がいいのかなど随分話題にも上った。

結局のところ「紙」のカードは個人が管理し、会社ではネット経由でデータ預かりサービスへ管理をお願いすることにした。

また、住基カードと同じようなICチップ搭載のカードを作るか随分悩んだが、メリットが見出せずICカードはいまだに作らずじまいである。カードを持ち歩いても何の役に立つか用途が不明であり、紛失時のセキュリティ面や再発行のことを考えれば、当面は「紙」のままでも特に問題ないと結論づけた。

ウィキペディアでマイナンバーのことを調べたら、こんな利用目的が書かれていた。(1)個人番号の証明書として、(2)無償の身分証明書として、(3)オンライン手続きのための証明書(電子証明書)として、(4)市区町村独自サービスの利用カードとして、(5)健康保険証として「まだ予定ではあるが」、(6)国家公務員身分証として、(7)マイナンバーカードを活用した消費活性化策「ポイントカード」として……。

しかし、これだけだと住基カードとどれだけ違うのか? 確かに(7)のポイントカードで使えれば多少メリットはありそうだが、しかしこれは先のことで想像も付かない。ICチップが搭載されているので、色々なサービスへの拡大は後付けできそうだが、それは将来のことである。カードを作るメリットは、そのサービスが始まってから考えればいい。

2018年7月の調査で、全人口に対するマイナンバーカードの発行総数は14,672千枚で、普及率は全人口のわずか11.5%である。今後は普及拡大していくだろうが、今はあまり使われていないのが実情と言わざるをえない。

通知カードを手にしてからすでに5年余り、いまだに一度たりともこのカードを必要としたことがない。身分証明のことなら大方のことは運転免許証で済む。そんなことから頭をよぎったのは、このマイナンバーカードも再び住基カードの二の舞にならないか? という疑問である。

マイナンバー制度構築の初期費用は2700億円、運用開始後も毎年維持費は300億円、それに加えて2015年度の補正予算として、マイナンバーカードの製造・発行などでさらに283億円が追加されている。この経費は毎年続く。

あるメディアではこんな風に評している。マイナンバー制度のメリットで、賛成派が挙げているのは「行政サービスの効率化」だけであると。「行政サービスの効率化」を謳うなら、マイナンバーで効率化した分、公務員人件費を削るため人員削減をすると政府は言っているのか? マイナンバーにかかる3000億円分の公務員人件費を削らなければ、これはただの負担増のはずである。

しかし、公務員の給料は上がっている。つまり、マイナンバー制度とは「行政サービスの効率化」ではなく、「他の事が目的で導入された」と気付くべきであろう、と。

他の事とは、穿った見方をすれば、我々個人の預金口座と紐づけて税金の徴収漏れを防いだり、個人資産をより正確に把握してお金の出入りを丸裸にすることではないか?

どんな理由があれ、相手が国であっても、我々個人の財産をだまって覗くというのは、あまり気持ちが良いものではない。

私の言い方をすれば、このマイナンバーはかなり「いけ好かない奴」なのである。

株式会社インターコム
代表取締役会長兼社長 CEO 高橋 啓介


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