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【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~
第79回 ご飯論法 2020年5月20日配信
サラリーマンの会話:
上司から部下に、「君、元気ないけど、朝ごはん食べてきた?」。
部下、「はい、ちゃんと食べてきました。(朝食はパンだったがそれは言わないで)」と答える。こんなとき、「いいえ、ごはんは食べていません、今朝はパンだったので」と答える部下はいない。
しかしこれと同じことを、近頃の政治家は野党の追求で都合が悪くなると、「(パンを食べてきているのに)いいえ、ごはんは食べてきていません」と答える。
論点をすりかえて平気で嘘をつく。
最近よく聞かれる「ご飯論法」である。
私には4歳半の2人の孫がいるが、保育園で朝一番、先生から「皆さ~ん、今朝はご飯食べてきましたか~?」と尋ねられたら、きっとみんな元気な声で、「は~い、食べてきました~」と素直に返事をするだろう。
残念ながら、そんな保育園児でもできることが今の政治家にはできないのである。
交通安全週間の取り締まりで、お巡りさんから「お酒を飲みましたね?」と尋問されたとき、「(ビールはたくさん飲んでいるのに)いいえ、お酒は飲んでいません」と、お酒の匂いをプンプンさせながら答えるドライバーのようなものである。「飲んだのはビールだから、(お米から作った)お酒は飲んでいません」と答える人は誰もいないはずだ。
しかし、政治家は、「いいえ、お酒は飲んでいませんよ」と真顔で否定するのである。
2018年、法政大学の上西教授がツイッター上で使ったことにより広まったのが、この「ご飯論法」である。国会討論の中で、政権側が野党の追求をかわすため、質問の論点をずらしたり、誤魔化したりすることを表した言葉として使われたのが初めである。
その後SNSで拡散され、2018年の流行語大賞のトップ10にも選ばれている。
私が、この「ご飯論法」に初めて出会ったのは、2~3か月前、テレビのニュースで放映された国会質疑の中である。まさかあの安倍首相がこんな答弁をするのかと、ちょっと自分の耳を疑ってしまった。
「桜を見る会」の質問で、『(安倍首相の後援)会が招待者を幅広く募っていた、これって募集した訳ですよね?』との野党からの追求に、首相は平然と、『募集していたのではなく幅広く募っていただけ、募集していたという認識はなかった』と言い放ったのである。
募っていただけ?? なんとも不可解な答弁である。「募った」と「募集した」のはどう違うのか。単純に論点をずらしたかったのであろう。
広辞苑で調べても「つのる(募る)とは:広く求め集める、募集する」と記述されており、まったくの同意語である。
「桜を見る会」の前夜祭を巡る答弁では、『誰がホテル側と契約を結んだのか? 安倍事務所ではなかったのか?』と野党からの質問に、『契約の主体は参加者であり、それは契約ではなく合意である』と。『後援会や支援者の招待枠は、自民党の中で割り振っているのでは?』(ごはんは食べたでしょう?)という質問にも、『自分は主催者としての挨拶や招待者の接遇は行うが、招待者の取りまとめには関与していない』(パンを食べてきたのでごはんは食べていない)と切り返した。それって当たり前でしょう!! 自ら個々に取りまとめする首相がどこにいるのか! 質問の意図を故意に歪め論点をずらしただけである。
また、「桜を見る会」に誰を推薦したか、名簿を廃棄したのでわからないと突っぱね続けていると、名簿を廃棄したとしても安倍事務所には他の記録が残っているのではという質問に、名簿はすでに廃棄しているのでそれ以外に確認できる名簿はない、と答える始末。
最近はこうした安倍首相の「はぐらかし答弁」を他の閣僚までが真似して使い始めている。前の内閣府特命担当大臣だった片山さつき氏の答弁がその一例である。
さいたま市に片山氏の写真付きの大型看板があり、公職選挙法違反の疑いがあるのではという指摘を受けた際、片山氏は、『自分が出版した書籍用の広告であり、政治活動のために使ったものではない、同じ看板はさいたま市には1か所しかない』と反論した。
しかし後になって、同じ看板が他の市でも見つかったことから、あれは虚偽答弁ではなかったのかと指摘されると、今度は『浜松市や名古屋市の看板も書籍の宣伝であり、さいたま市のものとは違う、これはさいたま市にしかないもの』だと突っぱねた。つまり、看板はいろいろ立てたが、これは選挙向けではなく雑誌用の広告であり、また同じ内容のものではないと、質問の意図を歪曲し都合のいい答弁で追求を逃れている。
野党も野党だ。いつも中途半端な質問ばかりでうんざりする。首相や閣僚への答弁を毎回切り崩せず、結局、誰一人、辞任に追い込むことができていない。国会中継を見ている大多数の国民も、毎回ずれた答弁やかみ合わない質問の繰り返しでうんざりしているであろう。まさに我々の税金の無駄遣いである。
私は、今でもポスト安倍は安倍首相しかいないと思っている。また政党も自民党以外の野党には政権を担う力はないと思っている。
しかし、それだけに今の与党には、長年溜まり続けた長期政権の歪みやおごりが出てきているようでならない。
モリカケ、カジノIR法案、公文書改ざんや廃棄、黒川検事長の定年延長、桜を見る会、アベノマスク、いきなりの一斉休校要請、星野源との『うちで踊ろう』動画、唐突に10万円へ変更した一律給付金など、次から次へと問題が出ている。
今の安倍内閣は、閣僚達をイエスマンで固め、官僚はいちいち指示しなくても総理の意向を忖度して動いてきたので、なんとかこれまではやってこられた。しかしこれから先も忖度が通用するだろうか?
つい最近も、アベノマスクの配布問題で批判が出ていることを新聞社の記者から質問されると、『御社のネット通販でも布マスク2枚を3300円で売られていたことを承知している。そのようなニーズがある中で、マスク2枚を配布した』と皮肉たっぷりに反論した。記者からの質問には真正面から答えず、論点をはぐらかし、得意のご飯論法で切り返した。
私はこれを聞いて、“またか!”と、ますます不信感が募ってしまった。
こうした最近の首相や閣僚達が繰り返す不誠実な発言で、この先、「今の与党に我々の未来や生活を本当に託してもいいのだろうか?」と、私の心は大きく揺れ動いている。
株式会社インターコム
代表取締役会長兼社長 CEO 高橋 啓介
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