【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第82回 僕の瞳は1万ボルト 2020年8月20日配信

それは感動の一瞬だった!
6月に受けた右目の白内障手術の翌日のこと、手術を受けたばかりだというのに急遽眼帯が外されることに。

「えーっもう??」と、あまりの急展開にちょっと戸惑ってしまったが、心の準備をする間もなく眼帯はナースの手であっさりと外された。

そして数秒後、窓の外のまぶしさに思わず、「おぉ~!」と声を漏らしてしまった。目の前に、東京の綺麗な景色がよみがえってきたのである。

長年霧のように白く霞んでいた右目が一気に4Kテレビにも似たクリアな色調に生まれ変わった。視力も0.3から1.0へ回復し、病院の14階から見下ろしたお茶の水駅付近の街並みは、スカイブルーの空の下に建ち並ぶ白い高層ビル群と相まって、まるで液晶の大画面テレビでも観ているような錯覚を覚えるほどの美しさだった。

目の前の一つ一つの景色が鮮やかな色彩に覆われ、見下ろした大都会の風景は、言葉では言い表せないほど鮮やかだった。本当に最高の気分である。

私は昔から目が良い方だと思っていた。

小さい頃から勉強や読書などしなかったので、目だけは人並以上に強いと自負していた。それがどうだろう! この数年で視力がかなり落ちてしまったのだ。年齢もあるが、近頃では、パソコンを駆使する毎日の仕事やこのコラムの原稿で、私の視力はのっぴきならない状態まで落ちてしまったのだ。

加えてコロナ禍での在宅ワークで、一日中パソコンの前におり、毎日ひどい疲労感に苦しめられていた。

そんな時、たまたまネットで見つけたプレミアム白内障手術と呼ばれる最先端の手術に興味が湧き、早速お茶の水にある某病院へこの手術のセミナーを予約した。

なんとしても良くなりたい。できることなら濁った目ん玉だけを取り外して隅から隅まで洗浄液で洗ったようにスッキリさせたい。そして若かった頃のような視力を取り戻したい。

そんな空想にふけりながら説明会に参加したのである。

セミナー会場には20名ほどの受講者がいた。ほとんどが私と同じ年代の人達ばかりだった。

15名ほどは女性だろうか。一通り説明が終わり質問時間に入ると最初に手を上げられたご婦人から「自分は齢でもう寿命が短い、なのでお金は少々かかってもいいから手っ取り早く手術をやってほしい!!」とあまりにもストレートで屈託のない意見が上がり、全員が爆笑の渦に。

女性はどうしてこうも強いのかと感心しているうちに、数人の質問が続き、セミナーは終了した。

どうやら自分と同じような白内障の手術を受けたい人達は大勢いるようだ。ナースに予約状況を確認すると空きはかなり先まで一杯だった。そんな混み具合に背中を押された訳でもないが、このセミナーの直後、衝動的に一番早い2か月後の手術日を予約したのである。

内容は、白内障で濁った水晶体を取り除き、私の目に合わせて特注で作ってもらった眼内レンズ(人工水晶体)に置き換えるかなり高度な手術とのこと。レンズは2か所にピントを合わせる多焦点レンズなので、見える範囲が広くなり、乱視の矯正も可能になるとのことだった。

手術後はメガネをかける必要もなくなる。期待できそうだ! そして何より、このレンズの構造から車の運転などの時に困る夜間時の光のにじみやまぶしさが少なくなるとのことであった。今は視力が心配でストップしている車の運転もこれからはできるようになる……。

最初が悪い方の右目、そして2週間後に反対側の目をやることにした。
よし覚悟は決まった。

これで長年苦しめられてきた、白内障の濁りと0.3の視力からくるひどい疲労感から逃れることができそうだ。そんな大きな期待を膨らませながら病院を後にした。

手術の当日、私と同じ手術を受ける患者は4名いた。私が一番バッターである。

ナースから術後の目薬のハウツーや手術時間など若干教えてもらったが、具体的にどのような手順で進められるか説明はなかったため、すでに私の頭の中は勝手な妄想でパニックになり始めていた。

洋服を着たまま頭にキャップを、そしてエプロンのような手術着を付け待つこと約20分。その間一番気になっていたのはなんといっても水晶体を切り裂くメスの恐怖である。

「手術直前に目の脇あたりに麻酔注射でもされ効き始めたらメスが入ってくる。それをガッチリ見開いた自分の目で観察しながら手術されるのでは」と、私の勝手な妄想はピークに達していた。

先生が現れ、いよいよ手術が始まった。最初に瞬きができないようにするための器具が目の周りにガチッと取り付けられた。まるで恐怖映画の1シーンでも見ているようだ。

周辺がチクリと痛い。次に固定されている目玉の中に目薬がたっぷりと注がれた。後でわかったが、どうやらこれが麻酔用の目薬だったらしい。

麻酔が効き始めると、今度は濃い霞が立ち込めたように視界が白くボヤーッとしてきた。

「ハッハーン、これで怖いメスは見なくて済む!」と好き勝手な想像をしているうちにも、耳元で「グイーン」という鈍い音がして、ものすごく眩しい3個のライトが顔面に接近してきた。

これが話に聞いていたレーザー光線なのか? 私はこのとき、スティーブン・スピルバーグ監督の映画「未知との遭遇」を思い出していた。強烈な光を放射して飛び交うUFOの1シーンのようだった。「グイーン」という鈍い音と共に3個のライトが上下左右に目の周りを通り過ぎ、20分間ほど私の頭上で動き回っていた。

その後、先生から「終わりました!」という言葉が告げられて手術は終了した。まさにあっと言う間の出来事だった。

眼帯を付けられ、休憩室で30分ほど休んだ後、手術は終わった。

さて2週間も経てばもう一方の目も手術して、私の悪化した目はいよいよ完治するはずである。今回、右目の手術を経験したのでもう怖くない。

両目の手術が終われば、待ちに待った新たな目による新世界が待っている。

3年前、運転免許証の講習会で、0.3の視力では更新の試験は通らない、免許証の更新は危ないと脅かされたこともあった。しかし、これで好きな車の運転もでき、安心して奥方と旅行や食事にも出掛けられるというものだ。

手術の翌日、右目の眼帯を外し、帰宅の途につく電車の中で、私の真向かいのシートに座った女子高生の持っていたショルダーバックの色が妙に綺麗な色に見えるのに気が付いた。

「アレレっ??」と思い、手術した側の目をつむり、悪い方だけの目で見るとなんとその色は真っ黒だった。「そうか!」、今まで黒と思って見えていた色は、実は綺麗な紫だったのだ。

そんな些細な発見に驚きながら、これから新しい世界が開けてくる喜びに、つい昔の歌を口ずさんでしまった。

「僕(君)の瞳は1万ボルト~……」。

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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