【コラム】『ロマンとそろばん』~ソフト会社CEOの独り言~

第89回 COCOA虫 2021年3月18日配信

皆さん、COCOA(ココア)をご存知でしょうか?

すでに利用されている方もいると思うが、COCOAとは2020年の6月から厚生省がサービスを開始したスマホ向けの「新型コロナウィルス接触確認アプリ」である。

COCOAがインストールされているスマホ同士を1メートル以内に15分以上近づけると、Bluetoothを介して相互のデータが自動交信され、互いの「接触情報」が記録されるというものである。

例えばAさんがPCR検査などで陽性と診断されると、保健所から「処理番号」がAさんのスマホに発行される。次にAさんがその「処理番号」をCOCOAに入力することでAさんと接触のあったCOCOAユーザーにその旨を知らせる仕組みになっている。

COCOAを導入するだけで、接触があった人にいち早く感染リスクを知らせるというありがたいサービスである。

このアプリの優れている点は、接触時の個人情報が特定できないように、データが暗号化されていて、一旦記録された接触情報は14日間だけ保存された後、自動的に破棄される仕組みになっているところである。

また、政府をあげての宣伝活動が功を奏し、リリース後わずか半年で1000万ユーザーのダウンロードを記録したというからその期待は大きい。

私も2020年の9月から使用している。

毎日COCOA画面の「陽性者との接触を確認する」ボタンを押して、「陽性者との接触はありませんでした」という表示を見てほっとするのだ。まるでCOCOAに守られている錯覚すら感じる日々だ(もちろん三密を避けていたが)。

だが最近、1つ不思議なことがあった。
実はCOCOAを勧めてくれた友人からコロナにかかってしまったと連絡があった。
彼とは数日前に会ったばかりなので、私の感染を心配してくれたのだ。

ところが、COCOAからの接触情報は届かなかった。必ず連絡が入ると思っていただけにとても期待外れだった。

しかし、病気の彼にCOCOAのことを聞くわけにもいかず、原因を知りたくて調べてみたところ、SNS上で、感染者から保健所に自分から言わないとなかなか「処理番号」を出してもらえないとかの不満が書き込みされていた。

また、感染者自らが陽性登録をしないと認識されないというこのアプリの完成度が中途半端なところも指摘されている。

とはいえ、それでも今回の不具合はちょっと解せない。
と思っていた矢先、2月中旬、COCOAのアプリに重大な欠陥が見つかり、それが4か月以上も放置されていたというニュースが明らかになった。この不具合は陽性登録者と濃厚接触した後でもスマホに何も通知されないというのである。

おそらくこれが友人の情報が来なかった理由だろう。

国を挙げて取り組まれてきたCOCOA政策だけに、私としてはまさに青天霹靂で、『エーーッ???』である。

この不具合は、新型コロナに感染したとわかっているにもかかわらずCOCOAからの通知が届かない、というSNSユーザーからの声があまりにも多かったことから見つかったらしい。

私は長年ソフトウェア業界にいるのでわかるが、こうしたトラブル(我々の業界では“バグ”や“虫”という)はソフトウェアにはありえることだ。

しかし今回の不具合で残念なことは、国民の生命を守るはずのCOCOAに重大な欠陥が検出されたにもかかわらず、そのまま4か月以上もほっぽりぱなしにされていたことである。

ソフトウェアというのは一度作ってしまえば終わりではない。リリース後に何度もユーザーから不具合などが報告され、その都度修正やバージョンアップを繰り返してようやく一人前の製品になるというのが普通だ。

例えば当社の場合にも、必ず開発部門とは別の検査部門を置き、動作確認や負荷検査、ユーザビリティなどの品質検査を行っている。

また、リリース前には社内環境での試験運用なども行う。さらに不具合が原因の訴訟問題などにも発展する可能性があるので、損害保険にも加入している。

それほどソフトウェアの品質というのは重要なのである。

そこのところをCOCOAの開発で陣頭指揮をとってきた厚生省は本当にわかっていたのであろうか? ソフトウェアの開発には必ずバグ(虫)が発生するということを本当に理解していたのか。

無料だから許される問題ではない。我々の税金を使って作成したソフトウェアではないか。

しかも現在、新型コロナの感染者数の増加がテレビなどで連日報道されている。にもかかわらず、陽性者との接触情報の通知が4か月以上も置き去りにされてきたというのは、誰が考えてもまずいと思う。

ついこの間まで、今年7月頃開催する予定の東京オリンピック・パラリンピック大会でもこのCOCOAを配布し、新型コロナウィルスの感染を食い止めるための対策をとることが報告されていた。

そんな中で、今回のようなCOCOAの不具合がもし会期中に起こったら、世界最先端のデジタル国家創造宣言をしている日本の信用はどうなってしまうのか、考えただけでも恐ろしい。

しっかりしようぜ日本!

株式会社インターコム
代表取締役会長 CEO 高橋 啓介


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